研究課題/領域番号 |
14J11942
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
砂川 芽吹 東京大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 自閉症スペクトラム障害 / 女性 / 臨床的支援 / 成人当事者 / 男女差 / インタビュー調査 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,成人になって初めて自閉症スペクトラム障害(以下,ASD)と診断された女性について,理解と支援のための知見を得ることであった。その上で1年目は,ASDの女性が直面している困難について,質的研究法の手法を用いて,主観的な体験プロセスを描き出すことを目的としていた。 まず,成人になってASDの診断を受けた女性12名の協力を得,インタビュー調査を実施した。分析は,グランデッド・セオリー・アプローチを用いて行った。その結果,ASDの女性を見えにくくする要因,およびASDの女性の診断に至るまでの適応過程が示され,ASDの女性は表面的な社会性のスキルによって障害を持っていることが周囲から見えにくくなっているが,自尊心が低く,支援が必要な状態であることが示された。またASDの女性については,内的な心理状態にも注目する必要があることが示唆された。 そこで続いて, ASDの女性が診断に至る以前から抱く「違和感」に注目し,先の12名のインタビューデータについて再分析を行った。分析はグランデッド・セオリー・アプローチを用いて行った。その結果,ASDの女性における,診断以前の「違和感」をめぐる心理過程,および診断が持つ意味についての示唆を得た。 これら2つの研究によって,ASDの女性が経験する困難や対処に関する知見を得ることができた。しかし一方で,対象者が女性のみであるという限界点があった。そこで,ASDの男性に対して女性と同様の枠組みでインタビュー調査を実施し,女性との共通と相違点を検討した。対象者は,成人になってASDの診断を受けた男性15名である。また,女性についても,新たに2名に対して追加のインタビューを行った。現在男性のデータについては分析中であり,女性のデータとの比較から,ASDの男女それぞれの特徴を詳細に検討していくことが課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【9.研究実績の概要】の欄で書かれたように,本年度の目的はASDの当事者に対するインタビュー調査を実施し,質的研究法を用いて,主観的な体験プロセスを描き出すことであった。 本年度は予定通り女性当事者,そして男性当事者に対するインタビューを実施し,分析や論文としてその結果をまとめるということができており,一定程度研究を実施することはできている。その一方で,男性当事者に実施したインタビュー研究については分析途中であることから,計画以上に進展しているとは言い難い。 以上からのことから,「おおむね順調に進展している」という評価が適切だと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
来年度より,本年度に得たインタビューデータを基に,ASDの女性の特徴を反映した尺度を開発する予定である。既存のASD者に関する尺度では,ASDの女性が必ずしも当てはまらない可能性も指摘されており,本年度実施したインタビューからも,ASDの女性における障害の表れ方や,女性ならではの困難があることが示唆された。そのため,インタビュ―データを最大限に生かす形で尺度を作成することで,ASDの女性の特徴や困難をより適切に表したものになるものと思われる。そして,開発した尺度と併せて,ASDの女性に求められる支援を検討していく。 予備調査を経て,ASDの当事者に対する本調査を7~8月,続いて健常大学生への調査を9~10月ごろ実施していく予定である。
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