研究課題/領域番号 |
14J11983
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
森川 響二朗 東京工業大学, 原子炉工学研究所, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | マイクロ・ナノデバイス / マイクロ・ナノ化学 / 流体工学 |
研究実績の概要 |
本研究は、単一分子から連続体の遷移領域である拡張ナノ空間(10-1000 nmの空間)のユニークな物性を利用したイオン分離デバイスの開発を目的としている。平成26年度は拡張ナノ空間における物性計測ツールの開発と、そのツールを用いた溶液物性評価に注力した。拡張ナノ空間の水溶液の誘電率を計測するための流動電位システムを開発し、その計測の結果、水の誘電率が拡張ナノ空間ではバルクと比べて約1/3に低下していることがわかった。また、塩化カリウム水溶液についても、同様にバルク比で約1/3に低下していることがわかった。さらに、流動電位システムやNMRを用いて、拡張ナノ空間におけるランタノイドイオン水溶液試料のガラスに対する等電点や緩和時間を計測した。その結果、拡張ナノ空間内の硝酸ルテチウム水溶液はバルクと同様の物性を示した。一方で、硝酸ランタン水溶液試料の拡張ナノ空間での計測結果は、ランタンイオンのガラスへの吸着がバルクと比べて抑制されており、水溶液中の水分子の運動もバルクと比べて抑制されていることがわかった。このように、純水試料で見られたような拡張ナノ空間でのユニークな物性は塩化カリウム水溶液や硝酸ランタン水溶液でも同様に見られる一方で、硝酸ルテチウム水溶液のようにバルクと同様の物性を示す試料があることがわかった。以上から、添加したイオン種の違いによって、拡張ナノ空間のユニークな溶液物性に違いが見られることがわかった。この結果は、添加したイオンのイオン半径の違いに伴う水和エンタルピーの違いに起因すると考えられ、イオンの水和状態の違いが表面との相互作用やイオンの輸送現象に変化を及ぼすことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画として、前半の2年間は拡張ナノ空間の溶液物性計測ツールの開発と、そのツールを用いた溶液物性の調査について注力し、後半の1年間でイオン分離デバイスの開発に取り組む予定であった。 それに対して、現状では概ね順調に研究が進展していると評価できる。拡張ナノ空間の溶液物性計測ツールの開発という点では、拡張ナノ空間の誘電率を計測するシステムの開発に成功し、拡張ナノ空間内の溶液の誘電率を定量的に得ることが可能となった。拡張ナノ空間の溶液物性評価という点では、添加したイオン種の違いによって、これまで純水試料で見られていたようなユニークな溶液物性に違いが見られることがわかった。さらに、添加したイオンがランタンイオンとルテチウムイオンという化学的性質がよく似たイオンであるにも関わらず、そのような違いが見られたことは新しい発見であった。このように、新しい溶液物性計測ツールの開発に成功し、拡張ナノ空間の溶液物性についても新しい知見が得られつつあり、当初の計画通りの成果が得られたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画として、前半の2年間は拡張ナノ空間の溶液物性計測ツールの開発と、そのツールを用いた溶液物性の調査について注力する計画であり、平成26年度において当初の計画通りの成果が得られた。2年目である平成27年度についても同様の計画を進めていく予定である。具体的には、成果が得られつつある拡張ナノ空間のランタノイドイオン水溶液の溶液物性について引き続き調査を進めていく。これまで計測を行ったイオンとは別のランタノイドイオンの水溶液試料の計測も行う。また、他の物性計測手法も導入して様々な物性値の計測を行う。必要であれば、オリジナルの溶液物性計測ツールの開発にも取り組む。このようにして得られた知見は、拡張ナノ流体デバイスの設計に必要不可欠なものになると考えられる。この得られた知見を生かして、3年目の計画である、イオン分離デバイスの開発につなげていきたいと考えている。ランタノイドイオンは化学的性質が非常に似ているため、それらの相互分離が非常に困難であるが、本研究で得られた成果を元にランタノイドイオンの相互分離デバイスが実現すれば大きな成果になると期待できる。
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