研究課題/領域番号 |
14J11989
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
増子 尚徳 東京工業大学, 大学院理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | 光触媒 / 半導体光電極 / イルメナイト / 酸化鉄 |
研究実績の概要 |
太陽光エネルギーを化学エネルギーに変換する人工光合成反応の中でも、太陽光と可視光応答型光触媒・半導体電極による水分解は水素製造の観点で活発に研究されている。従来の光触媒粉末や多結晶電極での材料研究に対して、本研究では高品質な単結晶薄膜で評価することで研究する。単結晶薄膜では半導体分野で確立された多くの材料工学の技術を用いて材料の本質的な特性を評価することができる利点がある。平成26年度では主に2つのテーマに注目し実験を行った。 1つ目は新規材料探索として元素傾向に対する知見を得るために、イルメナイト型構造MTiO3(M = Mn, Fe, Co, Ni)の遷移金属酸化物薄膜の作製と評価を行った。それぞれ4種の単結晶薄膜の作製に成功しバンドギャップの評価を行った。半導体光電極特性は4種の材料で光アノード電流が観測され、NiTiO3半導体電極で光アノード電流が大きくなることがわかった。今後は4種の薄膜の電子構造を放射光施設など利用し評価する予定である。 2つ目は結晶の向きで半導体光電極特性の異方性が変化するかを調べるため、配向を制御したalpha-Fe2O3薄膜の半導体光電極特性評価を行った。c及びm軸配向alpha-Fe2O3薄膜を作製し、m軸配向の方が光アノード電流は大きくなることがわかった。また光電気化学インピーダンス測定を行い、水溶液と接触する表面の違いも大きく影響していることがわかった。この結果は学会発表し、現在論文執筆中である。 また、発生する気体の同定・定量を行うために、現在、光電気化学セルの改造とガスクロマトグラフィーの立ち上げを行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では高品質な薄膜試料を作製し、半導体電極として可視光応答型光触媒材料を探索研究することを目的としている。平成26年度には①イルメナイト型構造の混晶薄膜による材料探索、及び②半導体電極における下部電極層の材料探索の2つの実験を計画していた。 イルメナイト型構造の混晶薄膜による材料探索については、混晶作製前にまず母物質となる4種のイルメナイトMTiO3(M = Mn, Fe, Co, Ni)薄膜の作製と評価を行った。4種それぞれの薄膜作製条件の探索をし、どの組み合わせの混晶が作製可能か調べた。混晶は計画していた(MnxFe1-x)TiO3は作製し評価したが、(FexCo1-x)TiO3混晶の作製までには至らなかった。今後は母物質となる4種のイルメナイトの特性を考慮し、作製する混晶の組み合わせを再検討し実験する予定である。 半導体電極における下部電極層の材料探索については、結果としてTaドープSnO2を採用した。異なる配向の単結晶サファイア基板上に異なる配向でTaドープSnO2薄膜が成長することを確認した。さらにTaドープSnO2上にalpha-Fe2O3薄膜を作製することで、配向を制御したalpha-Fe2O3薄膜の結晶の向きによる半導体光電極特性の異方性の実験を行った。さらに、光電気化学インピーダンス測定を行い、固液界面における配向の違いを評価した。これらは計画以上の進展であり、結果を学会で発表した。 実験以外について、測定システム上で発生する気体の同定・定量を行うために、密閉型の光電気化学セルの作製を行った。また、年度末にガスクロマトグラフィーを導入することができ、現在は立ち上げ作業を行っている。研究成果は国内学会・国際学会で発表することができたが、学術論文発表が次年度に持ち越されたことが予定より遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究について、まず新規光触媒材料探索研究として、イルメナイト型構造MTiO3(M = Mn, Fe, Co, Ni)薄膜の評価及び混晶薄膜の作製を行う。作製したイルメナイトMTiO3(M = Mn, Fe, Co, Ni)薄膜の電子構造を放射光施設など利用し評価する予定である。バンドギャップや電子構造の結果から、混晶の組み合わせを考え作製も行う。そして、半導体光電極材料としての元素の傾向をまとめる予定である。 配向を制御したalpha-Fe2O3薄膜の半導体光電極特性評価の結果は論文としてまとめる予定である。評価法として新しく導入したインピーダンス測定についてさらに理解を深めるために勉強し、上述したイルメナイトの半導体電極の評価にも積極的に用いていく予定である。そして、半導体光電極材料として固液界面に注目し、特性の改善のために研究開発を行っていきたい。 その他にも共同研究として、半導体電極で光照射直後の光キャリアの変化を調べるために、現在ピコ~ナノ秒スケールの時間分解測定の準備をしている。今後実際に測定し結果をまとめ報告していきたい。 測定システムで発生する気体の同定・定量を行うためにガスクロマトグラフィーを導入できたので、立ち上げ作業を進め、水分解による水素・酸素の定量を行う予定である。ガスの測定を行うことでより光触媒材料のさらなる研究開発に役立てることができる。そして、光電気化学セルを含めたガスクロマトグラフィーまでに繋がるガスラインの組み立てについて、専門の方に相談しつつ装置を完成させていく予定である。
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