本研究は腫瘍増殖におけるCXCL17反応性細胞(好中球型の免疫抑制細胞/MDSC)と腫瘍血管新生との関係性を明らかにし、新たな治療戦略を提案することを最終的な目標としている。前年度までの結果から、CXCL17を発現する腫瘍の内部に形成される血管が、血流を維持したまま腫瘍内に緻密な血管網を形成することから、CXCL17発現腫瘍の血管は構造的・機能的に安定的であると判断できた。また、CXCL17反応性細胞がこの血管網の形成に関与していることも明らかにしている。したがって、最終年度では、腫瘍浸潤性のMDSCの血管構築への直接的な関与を証明するとともに、CXCL17腫瘍の血管の特性にあった抗腫瘍評価について検討を行った。CXCL17はMDSCを腫瘍部位へと導くだけでなく、その環境下でMDSCの生存率を伸ばしていることが判った。in vitro解析において、MDSCとHUVECを共培養することでHUVECの運動能が亢進することも明らかとなった。CXCL17に暴露されたHUVECの運動能はコントロールと差を認めなかったため、MDSCが血管形成に関与している可能性が示唆された。CXCL17腫瘍内に形成された血管は、機能・構造が安定的で、漏出性が減少している点からも、正常血管に近いと判断できた。そのため、MDSCや血管新生因子を直接的に標的とするのではなく、既に構築された血管を有効活用し、既存の抗癌剤を利用した抗腫瘍効果を検討した。その結果、全ての薬剤でCXCL17発現腫瘍は高い抗腫瘍効果を示し、また投薬時期が遅いほど薬効が顕著に増加することが判った。したがって、CXCL17を発現する腫瘍では、MDSCの誘導により機能的な血管が増えることで腫瘍の悪性化が引き起こされるが、その血管を利用することで高い抗腫瘍効果を得ることができ、治療方針を決定するうえで重要な因子に成り得る可能性が示唆された。
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