研究課題
研究目的1)「どのような若者が援助希求行動をしないのか」の問いを解決するため日本の中高生約2万人を対象とした精神保健調査の解析を行った結果、いじめの被害者で希死念慮が深刻になるほど援助希求行動が行われない傾向があることが明らかになった(Kitagawa et al., 2014, PLOS ONE)。さらに、思春期の生徒で一般的な訴えである食欲の低下、不眠に着目しこれら身体的不調が希死念慮や自傷行為と関連するかについて調べた結果、食欲がないという訴えをもつ者、不眠を訴える者は各訴えのない者に比して、希死念慮、自傷行為のオッズ比が3-5倍となることが明らかとなった。これらの関連は自殺と関わりの強い不安抑うつ症状を考慮にいれても、引き続き同様の傾向が見られた。本知見は、国際学術雑誌へ今月中に投稿する予定である。なお、本研究は2016年2月に行われた第8回日本不安症学会学術大会において若手優秀演題賞(日本不安症学会)を受賞した。さらに、研究1)で明らかになった知見への介入策として、また自殺リスクを含む精神不調を早期発見早期対応することを目的として、タブレット端末を活用した児童生徒の精神保健アセスメントツールの開発を行っている。端末には、国際的に標準化された精神疾患等に関する評価尺度の中から思春期に起こりやすい項目を中心に搭載している。なお、本研究開発は2016年4月に共同通信社他多数の新聞社で取り上げられた(http://www.47news.jp/feature/medical/2016/04/post-1481.html)。研究目的2)「科学的根拠のあるいじめ対策プログラムの作成」では、諸外国の科学的知見を参考にしつつ、日本の学校現場になじむよう教員と協働で開発を進め、「養護教諭のためのいじめ対策プログラム」冊子を作成・自主出版した。現在、効果検証の準備を進めている。
2: おおむね順調に進展している
研究目的1)は国際論文への掲載及び投稿準備が進んでいるためである。ただし、これらは横断調査からの結果であり、因果関係にまでは言及できない。今後は、思春期の自殺リスクを縦断的に解析しその関連要因の検討を行う。データの蓄積は済んでおり、引き続き今年度も調査を実施する予定である。また、研究1)から得られた知見をもとに、介入策(タブレット端末を活用した精神保健アセスメントの試み)の開発に着手できた。これは大きな進展であり、既に小中高等学校数校において模擬使用を行い児童生徒、養護教諭からのタブレット使用に関する意見等を得た。また、タブレットを用いる場合と用いない場合での養護教諭の対応や判断の差についても、精神科医のトレーニングを受けた学生を生徒役としてロールプレイを用いて調査を実施した。研究目的2)では、学校教員と協働してプログラム冊子を作成することができた。本冊子に関する講演会を日本数箇所で開催したことや、学校教員向けの雑誌への寄稿などにより日本各地からの問い合わせを受けている(現時点で1000冊以上が配布された)。協働開発者の学校を中心に既に授業実施が行われている。文京区の小学校への導入も決まっており、今後はプログラムの効果検証を実施する予定である。
研究1)では、今後は申請者が蓄積した中学生、高校生を対象とした縦断調査のデータの解析を中心に行う。今年度も引き続き調査実施が決まっており、過去8年分のデータを縦断的に解析することが可能となった。本データには一卵性双生児のデータも含まれており、自殺リスクについて遺伝・環境要因を考慮に入れた解析が可能となる。また縦断解析により、これまでに明らかになった知見について因果関係についてもさらに解析を行う予定である。また、タブレット端末の開発については、模擬使用で得られた知見をもとに今後は実際の児童生徒での使用を行い、タブレットの有用性、妥当性、信頼性を評価していく予定である。研究2)今後は、プログラム実施学校の拡大とともに、授業の効果検証を行いたい。
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Sleep Medicine
巻: 17 ページ: 81-86
http://dx.doi.org/10.1016/j.sleep.2015.08.024
精神科
巻: 29 ページ: 未定
http://www.47news.jp/feature/medical/2016/04/post-1481.html