脂肪滴の成熟に伴い脂肪滴一重膜リン脂質の脂肪酸の不飽和度が変化することがこれまでの成果により示唆されてきたため、このリン脂質脂肪酸組成の変化が脂肪滴においてどのような生物学的意義を持つのかを明らかにすることを目的として研究を行ってきた。 過去3年間の研究の成果より、脂肪滴膜リン脂質の脂肪酸は脂肪滴の成熟に応じて変化するだけでなく、脂肪滴の大型化や脂肪滴上のタンパク質局在を調節する因子のひとつとなっていることが示された。 脂肪酸不飽和度の異なるリン脂質を用いたエマルションのサイズを調べると飽和脂肪酸結合リン脂質を用いた場合に大型のエマルションが形成されることが示された。さらにそのエマルションの膜密度を蛍光分子であるラウルダンを用いて評価すると、飽和脂肪酸が結合したリン脂質の方が膜密度が高いことが明らかになった。膜密度が高い場合、膜を構成するリン脂質の側方移動は制限され、脂肪滴内部のトリアシルグリセロールが露出することにより、エマルションの安定性が低くエマルションどうしが融合しやすい状態になると考えられる。これらの結果より、脂肪滴膜リン脂質の飽和脂肪酸は脂肪滴どうしの融合・大型化を促進する生物物理的な役割を果たしていることが明らかになった。この研究成果は今年度、国際誌に発表した 。 一方、3T3-L1などの脂肪細胞で見られる脂肪滴膜リン脂質の不飽和脂肪酸の増加は、脂肪蓄積に関わるPerilipin1タンパク質の脂肪滴への局在を調節していることが細胞およびin vitroの結果から示唆された。この成果については論文執筆中であり、Perilipin1以外の脂肪滴膜タンパク質の局在と脂肪滴膜リン脂質脂肪酸組成の関連性も含めて報告する予定である。 これらの結果より、脂肪滴膜リン脂質の脂肪酸は脂肪滴の成熟において重要な役割を持つことが示された。
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