研究課題/領域番号 |
14J12218
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
織田 望美 お茶の水女子大学, 大学院人間文化創成科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 保育 / 幼児教育 / 戦後教育改革 / 占領期 / CIE / エドナ・V・アンブローズ / ロバート・R・ユアーズ |
研究実績の概要 |
本研究は戦後占領期、CIE担当官として日本の幼児教育改革に関与した米国関係者、またその背景にあった米国の幼児教育が、戦後日本の幼児教育の出発に際していかなる影響を及ぼしていたのか、米国側関係資料に基づき、実証的に明らかにすることを目的としている。本年度はこれまでに行ってきた調査から得られた知見を踏まえ、主に日本国内にて入手可能な関係資料の収集および分析を行った。本年度実施した研究の概要は以下の通りである。 第一に、1951年3月、文部省より通達された「幼児指導要録」の作成過程におけるCIE関係者の関与とその影響ついて検討を行った。その結果、指導要録の作成に際してはアンブローズ(Edna V. Ambrose)が大きく二度にわたって関与し、内容構成の変更および個別項目の変更に関して、一定の影響を与えていたことを明らかにした。 第二に、1951年5月、文部省内に発足した「幼稚園教育の要領編集委員会」をめぐるCIE関係者の関与について検討を行った。その結果、アンブローズおよびユアーズ(Robert R. Ewerz)は、委員会の発足に際してその人選に一定の影響を及ぼし、また教育要領の作成過程においては事前の調査研究を重視する姿勢を一貫して示していたことを明らかにした。 第三に、CIEにおける幼稚園教育の普及推進(義務化を含む)をめぐる議論に着目し、彼らがそこに否定的な見解を示していたことを明らかにしたうえで、その意味について考察を行った。その結果、予算や資材の不足により義務教育の整備さえままならない状況のなか、幼稚園教育の量的な充実は相対的に優先度合の低い課題と見なされていたとの示唆を得た。 このほか、共同研究として戦時下の幼稚園に関する研究にも着手した。これは今後、当研究課題における直接の対象である戦後の幼児教育について検討を進めていくうえでも、有益なものであったと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度実施を予定していた国内での資料調査に関しては、おおむね計画通り進展している。具体的には、GHQ/SCAP文書が所蔵されている国立国会図書館憲政資料室のほか、教育課程文庫が所蔵されている東京学芸大学(9月)、広島大学(10月)といった各地の国立大学附属図書館にて資料収集を行い、その分析を進めてきた。 また、これらの調査から得られた当研究課題に関する研究成果は、国内外において計3件の学会発表(日本保育学会・幼児教育史学会・Hawaii International Conference on Education)を行い、多くの研究者から今後の研究を進めるうえで有益となる数々のコメントを得た。現在、これら学会発表を行った研究の成果に新たな資料を加え、論文にまとめ、投稿するための準備を進めている。 さらに、本年度はこれら国内での資料調査および研究成果の発表に加えて、次年度以降本格的な実施を予定している在米資料の調査へ向け、その予備的な調査を行った。その結果、アンブローズやユアーズの博士論文をはじめとする、複数の新たな資料を確認している。その意味で採用第一年度目となる本年度は、今後の研究遂行に際して基盤となる、有益な成果を得た年度であったと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降、実施を予定している研究計画の概要は以下の通りである。 第一に、本年度学会発表を行った研究の成果について、その後実施した関連資料の調査から得られた新たな知見を交え、論文にまとめ投稿していく。特に「幼児指導要録」、そして「幼稚園教育の要領編集委員会」に関する研究については、次年度中の投稿を目指し、現在執筆中である。 第二に、これら研究成果のまとめと同時に、引き続きこれまでに得られた資料のさらなる分析を進め、随時その発表を行っていく。特にカンファレンス・リポートおよびウィークリー・リポートをはじめとする、CIE文書内に記録されている情報の量は膨大であり、現在までに関連部分の特定および概要の確認はおおむね終了しているものの、それらすべての詳細な分析には至っていない。したがって、これら資料の分析については今後多様な観点から、新たな資料も交えつつ分析を継続していく必要がある。 そして第三に、本年度実施した在米資料の予備的な調査を踏まえ、米国における関係資料の収集およびその分析を進めていく。具体的には、アンブローズの著作が所蔵されているColumbia University, Teachers College, Gottesman Librariesをはじめ、各大学図書館の訪問を予定している。なお、これら米国で収集した資料の分析に際しては、主に以下2つの点を課題とする。第一に、戦後日本の幼児教育に関与した米国関係者個人の認識や思想など、幼児教育に関する事項を中心に検討を行うこと、そして第二に、各関係者個人の背景にあり、不可避的にその認識や思想と結びついていたであろう、当時の米国における幼児教育について検討を行うことである。 新資料の発掘など、資料調査の進捗によってはある程度計画も流動的になることが予想されるが、適宜柔軟に対応し、上記研究目的を達成していきたいと考えている。
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