研究実績の概要 |
環状スルホンアミドであるスルタムは多くの医薬活性化合物に含まれており、その骨格は創薬化学において頻繁に用いられている。しかしながら、スルタム骨格はその構造的な有用性とは相反して合成には複数工程を要するという問題を抱えていた。これまで私は、入手容易な反応剤と金属触媒を用いて短工程でスルタム骨格を構築する反応の開発に着手してきた。種々検討の結果、カチオン性の1価銅とN-フルオロベンゼンスルホンイミド (NFSI) を酸化剤、兼、反応基質として用いることで、アルケンから一挙に炭素-炭素結合と炭素-窒素結合を構築した触媒的6員環スルタムの合成法の開発に成功した。しかしながら、本反応系では、アルケン側の幅広い基質一般性と官能基許容性は達成されたものの、窒素源としてNFSIを使用しなければならないという課題を抱えていた。そこで昨年度は、NFSIを使用せずにスルタム骨格を構築することを目標とした。すなわち、求電子性の-CO2Rなどで保護されたスルホンアミドを用いて、窒素上を電子不足にし、NHのpKaを下げる。続いて、適切な塩基を用いてスルホンアミドを脱プロトン化し、1価の銅とN-Cu結合を形成させる。その後、2電子酸化剤を用いて3価の銅を発生させて、スルタム骨格を構築することを試みた。初期検討として、銅触媒を種々検討した。また、Selectfluor、1-fluoropyridinium salt、1-fluoro-2,4,6-trimethylpyridinium saltを用いて2電子酸化剤の検討を行った。しかしながら、目的の反応は進行しなかった。今回の条件検討では、反応剤が未反応のまま回収された。そのため、今回用いた2電子酸化剤では1価の銅を2電子酸化して触媒活性種であるアミニルラジカルを発生させられなかったと考えられる。
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