研究課題
本研究の目的はポドサイト障害がもたらす慢性腎臓病の病態を、オートファジーの観点から解明することである。これまでの研究でカテプシンL(CL)の発現亢進とカテプシンD(CD)の欠乏がオートファジー不全による重篤なポドサイト障害をもたらすことが明らかとなっており、本年度はそのメカニズム解明を中心に検討した。CLは腎障害時に発現が亢し、ポドサイト関連蛋白が過剰分解されることで、足突起消失や糸球体硬化に至る。実際にCLノックアウトマウスに糸球体硬化モデルであるアドリアマイシンを投与すると、野生型と比し糸球体硬化が有意に少なく、既知の基質であるシナプトポディン・ダイナミン・CD2APの分解も抑制されていた。この結果、細胞骨格・スリット膜の蛋白が維持され、糸球体硬化を抑制したと考えられる。さらに本年度、新たにProtein XがCLに分解されることが明らかとなり、今後も既知・未知の基質と糸球体硬化との関連について研究を継続する。CDについては、昨年度までの研究でCDの欠損が重篤なポドサイト障害をもたらすことが分かった。ポドサイト特異的CDノックアウトマウスは遅発性の糸球体硬化症を発症し、生後2年で血清尿素窒素とクレアチニンの上昇を認め、生存率は有意に低かった。さらに、糸球体硬化発症の機序として、ポドサイトのオートファジーが停滞し、多くのポドサイトがアポトーシスに至ることが示された。電子顕微鏡観察では、細胞質にCDノックアウトマウスの神経細胞で認められる特徴的な封入体の蓄積を認め、加齢と共に増加した。この蓄積物は、免疫電顕でミトコンドリアATP合成酵素サブユニットCが主成分であることが明らかとなった。本研究によりポドサイトは、CD欠損によりオートファジーが停滞しアポトーシスに至ること、CDの基質であるサブユニットCの蓄積が神経細胞と同様の細胞障害をもたらすことが示された。
2: おおむね順調に進展している
本研究によりカテプシンLの過剰発現とカテプシンDの欠損が、それぞれ別のメカニズムで糸球体硬化と関連していることが明らかとなったことの意義は大きいと考える。当初、本年度に予定していた、ノックアウトマウスからの糸球体単離によりポドサイトの初代培養と、不死化ポドサイトの作成は、ポドサイト単離の難しさなどから難渋しているが、併行してノックダウンポドサイト作成の準備なども進められており、おおむね順調に進展していると評価した。
カテプシンLについてはヒトの腎生検サンプルを用いた研究で、腎障害時に発現が亢進することが報告されているが、カテプシンDの発現についてはこれまで検討されておらず、腎障害時のカテプシンDの発現について検討する予定である。また、カテプシンL・カテプシンD共に未知の基質が糸球体硬化と関連している可能性が高いと考えており、未知の基質の存在を明らかにするためにノックダウンポドサイトの作成や、マイクロアレイ解析を検討している。
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