研究課題
申請研究では、過去の経験がその後の個体の記憶形成および情動行動にどのような影響を及ぼすのかという点に着目しており、その背景に存在する神経回路基盤の解明を目指している。本研究ではまず、マウスの恐怖記憶形成における事前経験の効果とその特性について検討した。マウスは電気ショックを受けると、恐怖反応の一種であるすくみ反応を示す。我々は、この性質を利用することで、事前に一度ショックを経験したマウスではその後の恐怖記憶形成が促進されることを見出した。また、その促進効果が少なくとも3週間は持続することや、事前に別の痛覚刺激を経験した場合には生じないことを明らかにした。さらに、薬物投与によりNMDA型グルタミン酸受容体を阻害すると、この効果は消失したことから、NMDA受容体を介した神経回路の可塑的変化が関与していることが示唆された。以上の研究成果を論文にまとめ、Neuroscience Research誌に発表した。続いて、仲間のマウスが電気ショックを受ける姿を別のマウスに観察させた際に、観察する側のマウスの挙動が自身の経験によりどのような影響を受けるのか検討した。上記の実験と同様、事前に一度ショックを経験したマウスでは観察時の恐怖反応が増強し、その効果が神経回路の可塑的変化に依存することを見出した。この結果は、過去の経験が脳内に痕跡として保存されることで、後の社会行動が影響されるということを示唆するものである。
2: おおむね順調に進展している
過去の経験がその後の記憶形成および情動行動に及ぼす影響を評価する実験系を、マウスを用いて構築することに成功した。今後はその背景で生じている神経活動の検出に重点的に取り組くことを計画しており、その基盤となる成果が得られたと考えている。
過去の経験は、記憶を担う神経細胞集団により表象されると考えられる。また、これまでの実験結果から、事前の経験時には神経回路の可塑的変化が生じることが示唆されている。そこで、事前経験によりその後の情動行動時の活動細胞にどのような違いが生じるのか、生化学的手法と薬理学的手法を組み合わせることで検討する。
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