研究課題
申請研究では、過去の経験がその後の個体の記憶形成および情動行動にどのような影響を及ぼすのかという点に着目しており、その背景に存在する神経回路基盤の解明を目指している。本研究ではまず、マウスの恐怖記憶形成における事前経験の効果とその特性について検討した。マウスは電気ショックを受けると、恐怖反応の一種であるすくみ反応を示す。我々はこの性質を利用することで、事前に一度ショックを経験したマウスではその後の恐怖記憶形成が促進されることを見出した。さらに、この記憶形成の促進効果は、NMDA型グルタミン酸受容体を薬理学的に阻害することにより消失したことから、NMDA受容体を介した神経回路の可塑的変化が関与していることが示唆された。続いて、別のマウスが電気ショックを受ける姿を観察させた際の挙動が、自身の過去の経験によりどのような影響を受けるのか検討した。その結果、上記の実験と同様、事前に一度ショックを経験したマウスでは観察時の恐怖反応が増強し、その効果が神経回路の可塑的変化に依存することを見出した。そこで、生化学的手法により神経活動を単一細胞レベルでかつ広範囲に検出し、詳細に解析を行ったところ、自身のショック経験時に活動した神経回路が他者のショックを観察している際に再活性化する度合いと情動伝染の強さとの間に正の相関関係があることを発見した。この結果は、過去の経験が脳内に痕跡として保存され、その痕跡が後の情動体験に関わる神経活動を生み出す際のモジュールとして機能し得ることを示唆するものである。
28年度が最終年度であるため、記入しない。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件)
J. Pharmacol. Sci.
巻: 32 ページ: 105-108
10.1016/j.jphs.2016.06.001.