研究課題/領域番号 |
14J12292
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
木村 好孝 東京大学, 薬学系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | 炎症性疾患 / HMGB1 / 骨髄系細胞 / サイトカイン / オートファジー |
研究実績の概要 |
HMGB1は定常状態において細胞核内に局在するタンパク質であるが、細胞死や炎症性の刺激によって細胞外に放出され、免疫応答を引き起こす。これまで組換えHMGB1タンパクや抗HMGB1抗体を用いることで、様々な炎症性疾患におけるHMGB1の関与が報告されてきたが、生体内におけるHMGB1の役割を詳細に明らかにすることは困難であった。全身性のHMGB1マウスは致死性であるため、本研究ではHMGB1コンディショナルノックアウトマウスを用い、炎症性疾患における生体内HMGB1の役割を解析した。 HMGB1はマクロファージなどの骨髄系細胞からLPS刺激により放出されることが知られている。そこで、HMGB1-floxマウスとLysM-Creマウスを交配することで骨髄系細胞にてHMGB1を欠損させたマウス (LysM-HMGB1 KOマウス)を作製し、LPS誘導性ショックにおけるHMGB1の機能を解析した。マウスの腹腔内にLPSを投与した結果、LysM-HMGB1 KOマウスでは生存率が顕著に低下し、それに伴い、血中における炎症性サイトカインIL-1b, IL-18の産生が顕著に増大した。これまでの報告で、IL-1bやIL-18の産生に寄与するcaspase-1の活性化がオートファジーによって抑制され、またHMGB1はオートファジーを促進することが知られていたため、HMGB1によるIL-1b, IL-18産生の制御はオートファジーを介していることが予想された。実際に、LysM-HMGB1 KOマウスから回収した骨髄由来マクロファージでは、LPS刺激によるオートファジーの誘導が減弱しており、この仮説を支持する結果を得た。 以上より、骨髄系細胞におけるHMGB1がオートファジーを促進してIL-1bやIL-18の産生を負に制御し、LPS誘導性ショックから生体を守っていることが示唆された。本研究は生体内HMGB1の炎症性疾患における役割を明らかにしただけでなく、これまで様々な炎症性疾患の増悪に寄与するとされていたHMGB1が抗炎症作用を持っていることを示した点で、新規性があると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の目的は、これまで解析の困難であった生体内HMGB1の炎症性疾患における役割を解明することである。今回、HMGB1コンディショナルノックアウトマウスを用いて解析を行った結果、LPS誘導性ショックにおいて、骨髄系細胞におけるHMGB1が炎症を抑制する知見を見出し、目的達成のための非常に重要な足がかりを得ることができた。この点についてまず評価したい。さらに、これまでHMGB1は炎症性疾患の増悪に寄与していると報告されてきたが、今回得られた知見から生体内HMGB1はそれらの報告とは異なる機能を持っていることが示された。この結果は炎症性疾患の治療法の開発に新たな一石を投じるだけでなく、詳細なメカニズムを解明することで将来的にインパクトのある知見が見出されると期待される。実際にHMGB1の炎症抑制メカニズムについて解析を進め、LPS投与後の血中における様々な炎症性サイトカイン量を調べた結果、骨髄系細胞の発現するHMGB1がIL-1b, IL-18の産生を抑制していることが判明した。さらに、そのようなIL-1b, IL-18産生制御のメカニズムを明らかにすべく様々な検討を行い、LPS刺激下においてIL-1b, IL-18産生の抑制に寄与するオートファジーをHMGB1が促進していることを示唆する結果を得た。この知見を得たことは、本研究の目的達成のための非常に重要なステップであり、評価に値すると考える。今後HMGB1によるオートファジー亢進の役割について詳細に調べていくことで、更なる発展が期待できる。 HMGB1の機能は世界的に注目を集めており、非常に競争が激しい分野である。そのような状況の中、本研究では細胞外に放出されるだけでなく細胞内にも局在するというHMGB1の性質上、実験結果の解釈が困難な状況にも関わらず、炎症性疾患におけるHMGB1の機能の一端をいち早く解明することができた。したがって、今年度の研究は期待以上の進捗があったと評価する。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では骨髄系細胞におけるHMGB1が炎症性サイトカインIL-1bやIL-18の産生を低下させ、LPS誘導性ショックによる個体死を抑制していることを明らかにした。さらに骨髄由来マクロファージを使った解析により、LPS刺激下においてHMGB1は、IL-1bやIL-18の産生を負に制御することが知られているオートファジーを亢進することが示唆された。今後はLPS誘導性ショックにおけるHMGB1-オートファジー経路の重要性を探るため、ATG関連分子のノックダウンやノックアウトマウスを用い、LPS刺激後の病態やIL-1b、IL-18産生を調べていく方針である。また、今回解析したHMGB1の炎症制御メカニズムが好中球などの他の骨髄系細胞においても成り立っているか、検討を進める。さらにオートファジーは細胞死の抑制に寄与していることが報告されているため、LPS投与後の炎症組織における、骨髄系細胞の細胞死についてもLysM-HMGB1 KOマウスを用いて調べていく予定である。またオートファジーは細菌感染への抵抗にも重要な役割を果たしていることが知られているため、細菌感染における骨髄系細胞のHMGB1の役割についても解析していきたい。 今回、オートファジーの制御が観察されたため、これまでの報告から細胞内HMGB1がLPSに応答したIL-1b、IL-18の産生に関わっていると考えられるが、細胞外HMGB1の関与についても、抗HMGB1抗体を用いて調べていきたい。今後はさらに樹状細胞など他の細胞でHMGB1を欠損させたコンディショナルノックアウトマウスを用いることで、細胞ごとのHMGB1の機能を探り、より詳細にLPS誘導性ショックにおける生体内HMGB1の役割を解析することも検討している。将来的には他の炎症性疾患モデルにおいての生体内HMGB1の機能についても調べ、HMGB1をターゲットとした炎症性疾患の治療法開発に役立てたい。最終的に一連の解析により得られた結果について論文としてまとめ、その成果を公表する。
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