バトラコトキシンは、特異なステロイド骨格を有し、その骨格は高度に酸素官能基化されている。したがって、その骨格構築法の確立は、バトラコトキシンの全合成を達成するうえで重要な課題のひとつである。また、効率的な骨格構築の確立は類縁体合成を志向するうえでも有用である。 本年度は、二つの収束的合成戦略に基づき、バトラコトキシンのステロイド骨格の構築を検討した。一方は、ラジカル反応を鍵反応とし、もう一方は、遷移金属触媒を用いたクロスカップリング反応を鍵とした。ラジカル反応では、アシルテルリドを橋頭位ラジカルの前駆体として用いることで、AB環のC9位に橋頭位ラジカルを発生させ、ラジカル受容体であるD環に付加させた。また、遷移金属触媒を用いたクロスカップリング反応では、AB環をビニルブロミドとし、D環をビスボロン酸エステルとし、鈴木宮浦カップリングを適用することでAB環とD環を連結した。いずれの場合も、収率に改善の余地は残すものの、AB環とD環を収束的に連結することに成功した。これらの反応は、官能基許容性の高い反応を鍵反応として設定しただけでなく、基質や反応条件を最適化することで達成された。ステロイド骨格は、残すC環の形成により構築できる。 このように、本年度はバトラコトキシンのステロイド骨格の構築に向けた研究を着実に進めることができた。さらに、二つの合成戦略を検討・比較することで、今後の骨格構築ならびにバトラコトキシンの全合成の達成に向けた重要な知見を得ることができた。
|