研究課題
これまで生合成遺伝子情報よりメディオマイシンの立体配置が予想できることを明らかとしたが、有機合成的な絶対立体配置の同定を試みた。メディオマイシンをオゾン分解後、フラグメントを誘導体化し、Trost法により決定された立体は全て遺伝子情報より予測された立体と一致していたことから、遺伝子によるメディオマイシンの立体決定が信頼できることが示された。また、全合成のターゲットともなっているテトラフィブリシンの遺伝子クラスターの探索に着手した。興味深いことに、テトラフィブリシン産生菌はより分子量の大きな新規化合物neotetrafibricinを与え、テトラフィブリシンはこの新規化合物の生合成中間体であることが示唆された。新規化合物の構造はMS及びNMRにより決定、候補生合成遺伝子クラスターも取得した。neotetrafibricinとメディオマイシン、ECO-02301の生合成遺伝子比較から、3つの遺伝子が共通の祖先を有することが示唆され、メディオマイシンとECO-02301の二者での比較結果を裏付ける結果が得られた。これまで2つの生合成遺伝子比較からケトシンターゼが上流側のPKSのケト修飾段階の違いによって、異なる系統樹上のクレードを形成していることを解明したが、3つの遺伝子配列を合わせて詳細に解析したところ、ケトシンターゼ中に基質の修飾段階の違いを反映する特徴的なモチーフがあることを突き止めた。このモチーフは他のモジュール型PKSにも見られた。さらにポリケタイド骨格の生合成エンジニアリングのため、アンチマイシン生合成酵素の機能解析を行い、様々な側鎖置換基を持つ伸長基質の供給系を確立し、ポリケタイド骨格に取り込まれることを示すことができた。
2: おおむね順調に進展している
ポストゲノム時代においてゲノム情報を活用する上で遺伝子情報から化合物の構造情報を得ることが重要となる。本年度は複雑な立体を有し固定配座をとらない直鎖ポリエンの立体決定にPKSの遺伝子解析が有効であることを示すことができた。さらにPKS酵素反応の特異性を遺伝子情報から推測できることも明らかとし、遺伝子組み換えメカニズムの解明と合わせて、これらの情報は遺伝子レベルでの合成生物学の発展に寄与しリプログラミングの理論的基盤を与えることが期待される。化合物創出の取り組みについても、伸長基質の供給により炭素骨格を変える応用性の高い手法を用いて成功事例を示すことができた。また、ポリケタイドの生産についてはアンチマイシンの生合成においてポリケタイドの伸長基質を供給しているAntEの結晶化に成功していたことから、構造解析と機能改変に取り組んだ。変異体酵素は基質特異性が拡大し、AntE変異体を組み込んだ放線菌において非天然型基質を培地添加し発酵生産した結果、新規炭素骨格を有するアンチマイシンの産生に成功した。
メディオマイシンなどの遺伝子クラスターの分析から得られた知見をポリケタイドエンジニアリングに応用し、物質生産を試みる。これまでに同定した硫酸転移酵素は寛容な基質特異性を示したことから、ポリケタイド骨格の修飾酵素としての応用を考える。硫酸化は天然のポリケタイドでは珍しく、生合成を用いた新規化合物創出が見込まれる。また、ポリケタイドの骨格エンジニアリングではアンチマイシンとその類縁化合物であるネオアンチマイシンの骨格変換を行いたい。アンチマイシンの生合成で見出した伸長基質合成酵素を他の経路に組み込み、ポリケタイド骨格の生合成改変による多様化を目指す。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件)
Angewandte Chemie International Edition
巻: 54 ページ: 13462-13465
10.1002/anie.201506899