研究課題
カスパーゼ1はマクロファージなどの免疫細胞において、様々なストレスに応答し形成されるタンパク質複合体インフラマソーム内で活性化し、炎症性サイトカインIL-1βの分泌および炎症性細胞死の実行を制御している。これまでの研究からカスパーゼ1活性化の制御機構については多くの知見が蓄積されてきたが、活性化カスパーゼ1がその2つのアウトプットを制御する分子機構はほとんどわかっていない。そこで私は、カスパーゼ1活性化を単一細胞レベルで可視化可能なFRETプローブ(SCAT1)を用いたライブイメージングシステムと化合物ライブラリーを組み合わせたスクリーニング系を駆使してこの分子機構解明に取り組んだ。今年度は前年度に構築したスクリーニング系と化合物ライブラリー(東京大学創薬機構のValidated Compound Library)を用いて実際にスクリーニングを行った。この系では、SCAT1発現マクロファージに対しインフラマソーム活性化刺激を与えた時に観察されるSCAT1蛍光消失(炎症性細胞死の特徴である細胞膜透過性上昇を反映)を、全自動細胞イメージアナライザーArrayScanによって検出する。1次スクリーニングでは、この蛍光消失を阻害する約100種類の候補化合物を得た。さらに、2次スクリーニングでは、SCAT1ライブイメージングシステムと生化学的アッセイを組み合わせ、1)カスパーゼ1活性化、2)炎症性サイトカイン分泌、3)炎症性細胞死について多面的に評価した。その結果、カスパーゼ1活性化の上流あるいは下流でそのアウトプットを制御する可能性がある化合物を8種類同定した。今後は、これらの化合物がインフラマソーム-カスパーゼ1経路を制御するメカニズムを、マクロファージを用いたin vitroの系およびマウスモデルを用いたin vivoの系によって検討する。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、前年度までに確立した初代培養マクロファージを用いたライブイメージングシステムと化合物スクリーニングを組み合わせたスクリーニング系を用いて、カスパーゼ1活性化のアウトプットを制御する可能性がある候補化合物を複数同定することに成功した。これらの候補化合物がターゲットするタンパク質を同定するまでには至らなかったが、今回用いた東京大学創薬機構のValidated Compound Libraryは生理活性が既知の化合物で構成されているため、どのような経路・タンパク質をターゲットするかの予想はすでについている。したがって、当初の研究計画通りとは言い切れないがおおむね順調に進展し、次年度に向けた準備もしっかり実行できたと考えている。
今後は、今年度同定した候補化合物について、インフラマソーム-カスパーゼ1経路を制御するメカニズムをin vitroで明らかにすると同時に、これらの化合物がターゲットするタンパク質も同定して行く。同定されたタンパク質について、生化学的・分子生物学的・免疫学的手法を駆使し、インフラマソーム-カスパーゼ1経路における機能を明らかにすることで、カスパーゼ1活性化のアウトプットを制御する分子機構の解明に繋げる。また、同時にマウスモデルを用いたin vivo系において、得られた分子あるいは化合物がインフラマソーム-カスパーゼ1経路が関与する生体反応にどう影響を与えるかを遺伝学的・薬理学的手法によって検討することで、カスパーゼ1活性化アウトプットの生理的意義を明らかにする。
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