ADP-ribosylation factor-like 8 (Arl8) は主にリソソームに局在する低分子量Gタンパク質で、エンドソームやファゴソームとリソソームの融合に関与し、リソソームでの物質分解に促進的に機能する。しかしながら、Arl8の細胞内で機能する分子メカニズムが明らかにされる一方で、個体における生理的機能が未解明であったため、Arl8ノックアウトマウスの解析を行った。哺乳動物にはArl8aとArl8bの2種類のアイソフォームが存在するが、解析の結果、Arl8bノックアウトマウスは1) 神経管の脳背側正中線(蓋板)の遺伝子発現が異常となること、2) 脳でBMP受容体が蓄積し、BMPシグナル下流のSmadのリン酸化が亢進すること、3) 野生型の子宮内にBMP精製タンパク質をインジェクションすると、Arl8bノックアウトマウスに類似した蓋板の遺伝子発現の異常を呈すること、を明らかにした。BMPリガンドによって活性化されたBMP受容体は、エンドサイトーシス経路でリソソームに運ばれ、分解されることによりシグナルが負に制御される。Arl8bは後期エンドソームからリソソームへの物質輸送に必要な因子であることから、Arl8bノックアウトマウスではBMP受容体のリソソームでの分解に異常が生じた結果、活性化されたBMP受容体が細胞内に蓄積し、BMPシグナルが亢進した可能性が考えられた。アフリカツメガエルや鶏の胚を用いた解析により、BMPシグナルが蓋板の発生に重要であることが示されていることから、Arl8bノックアウトマウスではBMPシグナルが亢進した結果、蓋板の発生が異常となった可能性が示唆された。
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