研究実績の概要 |
ω3脂肪酸であるドコサヘキサエン酸は動脈硬化症や神経変性症に対する保護作用を持つことが知られているが、分子レベルでの作用機構については不明な点が多い。これまでに当研究室では急性炎症の収束を促進する細胞である好酸球から脂肪酸代謝酵素12/15-LOX 依存的に産生されるドコサヘキサエン酸(DHA)由来の代謝物として 14,20-diHDoHE を同定している。14,20-diHDoHE はザイモサン腹膜炎モデルにおいて初期の好中球浸潤を抑制する活性を有しており、DHA が有する生体保護作用の一端として14,20-diHDoHE が機能している可能性が考えられた。 本年度においては生体内で産生される 14,20-diHDoHE の立体化学構造について、有機合成によって得られた標品を用いて解析を行い、マウス好酸球から産生される 14,20-diHDoHE が 14(S),20(R)-diHDoHE の立体化学構造を有することを明らかにした。また、腹膜炎モデルにおける初期の好中球浸潤に対するこれら立体異性体の抑制活性を評価したところ、14(S),20(R)-diHDoHE と 14(S),20(S)-diHDoHE のどちらの異性体においても観察された。これらの結果は14,20-diHDoHE が好酸球から産生される立体選択的に産生されることを示唆しており、好酸球には12/15-LOX によるDHA の14位炭素の水酸化反応と協調して働き、20位の炭素を立体選択的に水酸化することで14,20-diHDoHEを産生する酵素が存在する可能性が考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究成果より、14,20-diHDoHE の産生が何らかの酵素により産生されることを示唆出来たため、当初の予定通りに 14,20-diHDoHE の産生酵素について今後も解析を行う。具体的には脂肪酸の水酸化を担うことが知られるシトクロム P450 遺伝子についてマウス好酸球に発現するものを RNA シーケンスで探索し、それらの酵素活性を評価することで 14,20-diHDoHE の産生酵素の同定を目指す。
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