自然界に広く存在するステロイドは、生理学的に重要な生体内機能分子である。癌由来細胞に対して高い細胞毒性を有する19-ヒドロキシサルメントゲニン配糖体やウアバインは、AB環及びCD環がシス縮環したステロイド骨格上にブテノリドと多数の酸素官能基を有するカルデノリドである。これまでに私は構造活性相関研究を見据えた19-ヒドロキシサルメントゲニン、ウアバゲニンの合成、そして糖の導入法を開発した。 本年度は今後カルデノリドの構造活性相関研究に役立つ知識と技術を習得するべく、海外留学制度を利用し、留学先の研究室にてStephacidin類の構造活性相関研究に従事した。Stephacidin類は主にAspergillus属によってトリプトファンとプロリンから生合成されるアルカロイドである。Stephacidin類の生合成経路は、最も酸化段階の低いstephacidin A からの段階的な酸化反応、そして二量化反応と求核付加反応が組み合わさった機構が提唱されている。また興味深い点として、Stephacidin類の多様な生物活性があげられる。 本研究では、生合成仮説に基づいた合成法を開発し、4つのStephacidin類の天然物の合成を初めて達成した。また開発した合成法は構造活性相関研究にも応用可能な合成法となっており、既に幾つかの構造類縁体の合成にも成功した。これにより今後、Stephacidin類とその構造類縁体の化学合成による供給、そして生物活性評価が可能となった。
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