研究課題/領域番号 |
14J12435
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
坪光 生雄 一橋大学, 大学院社会学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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キーワード | チャールズ・テイラー / 公共宗教 / 世俗の時代 / キリスト教 / カトリシズム |
研究実績の概要 |
平成26年度、「近現代における公共宗教の研究」を主題とする本研究は、二つの査読付論文(うち一つは平成27年6月刊行予定)を含む成果を得た。以下、これらのそれぞれに即して、本研究の成果の具体的内容および意義について述べる。 第一の論文「世俗の時代の『護教論』――チャールズ・テイラーの神学的な歴史」は、平成26年8月に『一橋社会科学』誌上に掲載された。同論文は、本研究の主たる考察対象であるチャールズ・テイラーの宗教思想が、現代の時代的状況に対してどのような評価を与えているかを明らかにしたものである。テイラーは今日の「世俗性」を、必ずしも宗教に対する排他性・閉鎖性としてではなく、むしろより一般的な仕方で人々を規定する「信仰の条件」と特徴付けている。この点を明確に確認できたことは、公共宗教論との関連でテイラー思想及びそこに読み取られるカトリシズムの宗教性を理解するという本研究の当初からの目的にとって意義深い成果である。 第二の論文「切断に抗して――チャールズ・テイラーの受肉の思想」は、『宗教研究』682号への掲載が決定され、現在は刊行に向けて準備中である。同論文は平成26年9月の日本宗教学会及び翌年3月の宗教哲学会における研究発表の成果をなお深めた内容となっている。同論文の主眼は、テイラーのカトリシズムを「受肉」の信仰として読み解き、その神学的な特徴を明確化することにある。結論においては、テイラーが受肉のうちに、超越と内在との和解、また赦しによる暴力の克服の可能性を見ているという事実を確認した。また、考察の過程では、受肉の宗教たるキリスト教において「コミュニオン」が帯びる意義を、テイラーがシャルル・ペギーの思想から汲み取っている点にとりわけ注目した。これにより、テイラーの所論をフランス・カトリック思想との関連で検討するという本研究の目的の一端が、有意義な仕方で達成されることとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、チャールズ・テイラーのカトリック思想の検討を主軸として、近現代社会における宗教の位置づけを明らかにすることを主たる目的としている。その上で、平成26年度取り組むべき具体的な課題は大きく二つに区分されていた。すなわち第一に、テイラーの宗教論に影響力を持った近代フランス・カトリック思想の文脈を整理すること、第二に、テイラーを中心として世俗主義論および公共宗教論を検討することである。以下、このそれぞれについて、現在の研究の達成度を述べる。 第一の区分に関しては、先に挙げた二つの論文のうちの後者「切断に抗して」が、その成果である。同論文では、当初計画されていた通りシャルル・ペギーの思想を取り上げ、テイラーのカトリシズムとの関連で考察を深めることができた。テイラーの宗教論を扱う先行研究においてはほとんど注目されてこなかったペギーからの思想的連続性は、実際にはテイラーのカトリシズムの中心的主題に触れるものであった。平成26年度の研究の進展は、これを何ほどか明らかにした点で、今後さらなる充実が望まれるものの、当初の計画に照らして十分なものであった。 第二の区分における成果に該当するのは、もう一方の論文「世俗の時代の『護教論』」である。同論文の議論は、テイラーが今日の世俗性をどのように評価しているかを明らかにした。自身の信仰から発するテイラーの語りのうちに、現代世界における宗教の位置づけについての彼の評価的思考を読み込むことができた。こうしたテイラーの語りは公共宗教論としても意義深いが、同時にそれ自体において「公共的な宗教言説」としての性格を持つものであるだろう。同論文の議論は、この両義性を十全に分節化するまでには今一歩至らなかったものの、今日の宗教性と世俗性の関係を巡るテイラーの時代診断的洞察を詳細に検討することで、本研究の目的に適った重要な進展をもたらしたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、今後も引き続き平成26年度の研究方針を受け継ぎ、それをいっそう深めるべく努力する。また、平成27年度は本研究課題の採択期間の最終年度であるため、「公共宗教」の研究として統合的な成果を提示することを目指す。具体的には、以下のような推進方策を取る。 第一に、近代フランス・カトリシズムの思想潮流とテイラー思想との関連づけをいっそう充実させる。上で述べたように、平成26年度の研究はシャルル・ペギーを対象としてこの課題に取り組んだ。だが、ペギー思想の検討それ自体もさらに深められる必要がある上、考察対象はその潮流に位置づけられる他の論者にも拡げられるべきである。とりわけ、テイラーも示唆しているように、ペギーの影響下にあって第二バチカン公会議の知的背景を準備したフランスの神学者たちを見ることは重要である。これにより、テイラー思想と第二バチカン公会議以降の今日のカトリシズムとの関係を明らかにできるだろう。 第二に、昨今活況を呈する公共宗教論の論争的枠組の内にテイラーを位置づけて検討することが予定されている。ホセ・カサノヴァ、ユルゲン・ハーバーマス、タラル・アサドらと並んで、今日とりわけ大きな注目を集める公共宗教論者としてのテイラーが、当該の論争状況において占める独自の立ち位置を明確化する。テイラーの独自性は、彼の言説の両義性、すなわち、メタ倫理的な制度性を志向する「公共宗教論」または「世俗主義論」でありながら、同時にそれ自体、論者当人の宗教的な行為者性の負荷を負った「公共的宗教言説」でもあるというその二重の性格に求められる。本研究はこの点において、第一の課題区分で十分に神学的に文脈付けられたテイラーのカトリシズムの詳細と、公共宗教及び世俗主義を巡ってテイラーが打ち出す今日的な論争性とを交差させ、これまでそれぞれ別々に深められてきた二つの考察の軸を統合的に関連付けようとする。
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