これまでの研究結果により、飽和脂肪酸負荷時に小胞体ストレス応答分子IRE1が特徴的な活性化を起こすことが示されている。このIRE1の活性化には脂肪酸組成変化を感知する必要があるが、そのセンサータンパク質は同定されていない。そこで、膜リン脂質の脂肪酸組成変化と関連する分子を探索するため、PUFAを合成できないfat-3変異体の線虫を用い、RNAiスクリーニングにより表現型を増強させる遺伝子を探索した。その結果、PUFA欠乏によりEMC-1 (ER membrane protein complex 1)という膜タンパク質の局在が変化することが分かった。EMC-1は野生株において小胞体様に局在したが、fat-3変異体ではリソソームの内腔に存在していた。これより、EMC-1は生体膜の脂肪酸環境の変化により局在が影響を受ける分子であることが示唆された。 EMC分子が高等動物においても脂肪酸組成感受性を持つかを検討するために、HeLa細胞に対して飽和脂肪酸であるパルミチン酸を添加したところ、EMC6のタンパク質量が減少することがわかった。これより、脂肪酸組成変化によりEMC6が分解することが示唆された。 飽和脂肪酸負荷によるEMC6の分解の生理的意義を調べるため、EMC6を安定発現する細胞株を作製し、飽和脂肪酸負荷時の表現型を解析した。細胞に対して飽和脂肪酸負荷が加わると、そのストレスを軽減させるためにSCD1が発現上昇する。一方、EMC6安定発現細胞ではパルミチン酸添加時にタンパク質が減少することがわかった。このSCD1の発現減少はプロテアソーム阻害剤MG132処理により抑制されたことから、EMC6安定発現細胞ではプロテアソーム依存的にSCD1が分解していることがわかった。以上の結果より、飽和脂肪酸負荷時のEMC6の分解はSCD1のタンパク発現レベルを維持するために必要であることが示唆された。
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