研究課題/領域番号 |
14J12469
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
浅野 理沙 京都大学, 物質-細胞統合システム拠点, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | vitamin D / SREBP / SCAP |
研究実績の概要 |
本研究室で脂質代謝を担うタンパク質SREBPの阻害活性に着目して行ったスクリーニングの結果、ビタミンD(VD)代謝物がヒットとして見つかった。そこでVD代謝物の脂質代謝制御メカニズム解析を目的に研究を行った。 VD代謝物は主に核内受容体であるVD受容体(VDR)を介して機能することが知られている。そこでSiRNAによるVDRノックダウンを行ったところ、VD依存的なSCAP減少に影響しなかったことから、VDRとは独立した作用であることが分かった。 次にSREBPと複合体を形成しているタンパク質SCAPの挙動に着目したところ、SREBPの減少とほぼ同時にSCAPも減少していることが分かった。SREBPは結合パートナーであるSCAPがない状態ではすぐに分解されるという先行報告を考え合わせると、SREBPの不活性化はSCAPの減少が引き金となって起きているという仮説が立てられる。そこでSCAPの減少メカニズムに着目し、転写抑制、タンパク合成阻害、分解の3つの可能性を検討した結果、VD依存的な分解が起きていることが明らかとなった。更にVD依存的なSCAPのユビキチン化が見られたこと、プロテアソーム阻害剤処理によりSCAPの減少効果が弱まることから、ユビキチン・プロテアソーム系による分解の関与が示唆された。 更に全長SCAPの挙動に着目し、VDによりSCAPの一部の切断(プロセシング)が分解に先立って起きることが分かった。このSCAPのプロセシング及びそれに続く分解は、プロテアーゼ阻害剤処理によって抑えられることが分った。 以上により、VD存在下まずはSCAPのプロセシングが起こり、それに伴いSCAP-SREBP複合体が壊れて不安定化し、SCAPはユビキチン・プロテアソーム系によって分解され、同時に安定に存在できなくなったSREBPも分解され、活性化抑えられているという仮説が立てられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の本来の目的は、内因性のビタミンD代謝物の新たな機能として見つかってきたSREBP活性化の阻害という現象に関して、そのメカニズムを解明することであった。 上記研究実績に示したとおり、SREBPの活性化の制御は、ビタミンD依存的なSCAPのプロセシング及び分解によって起こっている仮説を立てるまでに至っており、研究はおおむね順調に進んでいると考えられる。 しかし、ユビキチン化に先立ってプロセシングを受けるという前例がこれまでになく、ウェスタン見たときのバンドの見え方から判断してプロセシングの度合いにばらつきがあるので、今回新しく発見したこのプロセシングの現象に関しては、更に慎重に検討を行っていく必要があると考えられる。 またSCAPの分解に関わっていると考えられるユビキチンライゲースやプロテアーゼの特定には至っていないので、今後検討していきたい課題として残っている。 まだまだ細かい点を詰めていく必要はあるが、研究の方向性は当初計画したとおりに進んでおり、大まかなメカニズムに関してはこの一年で解明できた点が多いため、“おおむね順調に進展している。”という評価を選んだ。
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今後の研究の推進方策 |
上記研究実績で示したSREBP活性化制御メカニズムの仮説に基づき、現在までの達成度で書いたような細かな点をひとつひとつ詰めていこうと考えている。 まずは、ビタミンD依存的なSCAPのプロセシングに関して、切断サイトやプロテアーゼの特定を行っていきたいと考えている。 またこのメカニズム解析に併せて、現在更なる化合物の誘導体展開を進めている。今回見つけた新たなビタミンD代謝物の機能においては、VDRが関与しないということが分かっているので、VDRに作用せず、SREBPの活性抑制効果のみをも持つ人工ビタミンDを作製したいと考えている。既にレポーターアッセイ及びウェスタンを用いて、SREBP阻害活性、VDRへの作用の有無の評価を行い、いくつかの候補化合物を見出しつつある。この結果をもとに、創薬やツールへの応用を考えていきたい。
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