研究課題/領域番号 |
14J12540
|
研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
桒原 崇 大阪府立大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
|
キーワード | 金属ヒドリド / 異性化 / ホモアリルカーボネート / ホモアリルシリルエーテル / エノン / β-ルテニウムケトン |
研究実績の概要 |
遷移金属ヒドリド錯体は種々の触媒反応に広く用いられており、オレフィンの異性化、アルコールを用いた水素移動型還元、C-H結合活性化を伴った炭素-炭素結合形成反応など、その反応形式は多岐に渡る。またこれまでに本研究員の所属する研究室ではルテニウムヒドリド種のオレフィン異性化と続く結合形成反応についての知見を有しているが、本研究では特にこの異性化/結合形成反応を様々な新規反応へ適応させるべく検討したところ、次のような成果1-3を得た。また本研究員は現在までにRuHCl(CO)(PPh3)3錯体とエノンによる生じたβ-ルテニウムケトン錯体の安定性を見出しており、成果4を得た。 (1) ホモアリルカーボネートをマロン酸ジエステルおよびRuHCl(CO)(PPh3)3触媒存在下加熱撹拌すると、二重結合の異性化続くアリル位アルキル化が進行した生成物が良好な収率で得られることを見出した。 (2) より詳細なメカニズム解明のためにホモアリルカーボネートの異性化のみについて詳細に検討したところ、良好に異性化が進行し対応するアリルカーボネートが得られた。本反応においては酸素原子の根元の置換基の大きさや、酸素上の置換基の大きさが異性化の度合いに大きく関与することを見出している。 (3) さらに異性化反応をホモアリルシリルエーテルへと拡張を試みたところ、カーボネートと同様に対応するアリルシリルエーテルが得られることを見出した。なお置換基によってはビニルシリルエーテルが生成することも見出しており、この点はカーボネートと大きく異なる点である。 (4) RuHCl(CO)(PPh3)3錯体とエノンとの量論反応により生じた結晶をX線構造解析により、β-ルテニウムケトンの正確な構造を同定した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)、(2) ルテニウムヒドリド触媒存在下、ホモアリルカーボネートとマロン酸ジエステルから二重結合の異性化を伴った炭素-炭素結合形成反応を見出すことに成功した。また本系ではアリル位アルキル化のステップが配位子の選択によって、位置選択的に結合形成が進行する余地を残しており、柔軟性のある有用な有機合成となりうると考えている。 (3) アルケニルシリルエーテルを用いた場合にビニルシリルエーテルへと変換することはすでに報告されているが、本研究ではアリルシリルエーテルが得られることから、新たな知見であると考えている。現段階では置換基の種類によって選択性に違いが見られる。しかし金属種や配位子などの精細な条件によって、異性化の位置の精密なコントロールが期待できる。 (4) これまでルテニウムエノラートとβ-ルテニウムケトンとの平衡は明らかになっておらず、十分に開発の余地が残されている。本研究者はこの錯体を炭素求核剤とした新たな反応へと応用できると考えており、新たな炭素アニオン種の反応手法ではないか考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
初年度の研究において、ホモアリルカーボネートからアリルカーボネートへの異性化と続く置換反応が確認できたことから、より遠隔なアルケニルカーボネートへの発展を試みる。例えばもう1炭素鎖伸ばしたアルケニルカーボネートの検討を行う。その後種々のアルケニルカーボネートへと拡張する予定である。 またアリル位アルキル化だけでなく、Diels-Alder反応や、メタセシス反応など他のオレフィンを反応点とする反応条件についても検討し、異性化との組み合わせによる位置選択的な結合形成反応について検討する。 また、β-ルテニウムケトン中間体を炭素求核剤としたβ位選択的な結合形成反応の展開についても試みる。具体的には分子内にエノンとアルデヒド部位の両方をもつ基質を合成し、種々の金属ヒドリド種について知見を得ることとしたい。
|