研究課題/領域番号 |
14J12587
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研究機関 | 帝塚山大学 |
研究代表者 |
山下 雅俊 帝塚山大学, 心理科学研究科, 特別研究員(DC1)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 中枢性/精神性疲労 / 睡眠障害 / グリア-ニューロン間相互機構 / トリプトファン代謝産物 / 認知機能 |
研究実績の概要 |
不登校の成因には慢性的な睡眠障害を基盤とした中枢性/精神性疲労が関与している。従来の中枢性疲労研究ではラットの運動後疲労モデルを用いて、トリプトファン脳内取り込みに伴うセロトニン亢進仮説に重きを置くものであった。これに対して、申請者が開発した睡眠障害型中枢性疲労(CFSD)モデルラットの実験心理学的研究から、トリプトファン脳内取り込みに伴うキヌレン酸生成の増幅効果が中枢性疲労の成因に関与することを明らかにした。しかし、この研究成果ではキヌレン酸生成の前駆物質となるキヌレニン自体が中枢性疲労の引き金となるのか、また、中枢性疲労の誘発機構が神経膠細胞(グリア)-神経細胞(ニューロン)間相互機構の役割を含めた末梢-中枢連関の特性によるものかが不明瞭であった。本研究では中枢性疲労の誘発機構を解明するため、末梢-中枢連関でのトリプトファン代謝産物動態を網羅的に解析した。
(1)キヌレニンの行動薬理学的操作による空間認知記憶の成立過程の検討 キヌレニンの末梢投与は海馬内キヌレン酸生成を有意に亢進し、それは保持した空間認知記憶の想起の抑制と関連することを明らかにした。即ち、末梢由来のキヌレニンとトリプトファンの脳内取り込みがキヌレン酸生成を亢進し、それらの増幅効果が中枢性疲労の成因に関与し、認知機能不全のトリガーとなることが推測される。 (2)中枢性疲労時のニューロンシナプス前トリプトファンとモノアミン動態の検討 CFSDモデルから、視床下部と海馬組織のニューロンシナプス前トリプトファン濃度は有意に上昇し、セロトニンとモノアミン代謝産物(ノルアドレナリン、ドーパミン、3,4-ヒドロキシフェニル酢酸、5-ハイドロキシインドール酢酸)濃度は有意に減少した。以上から、ニューロンシナプス前で過剰状態にあるトリプトファンはセロトニン経路ではなく、キヌレニン経路への代謝亢進を誘導することを示唆する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当該年度においてまず、申請者は研究課題を遂行するための基礎データを国際誌International Journal of Tryptophan Researchに論文投稿し受理された。この研究成果は中枢性疲労の誘発機構に関する従来のセロトニン亢進仮説を棄却し、新たにトリプトファンとキヌレン酸の増幅仮説を提唱するものである。また、中枢性疲労の誘発メカニズムと行動・認知機能との関連性をInternational Congress of Applied Psychology(Paris, July 2014)、International Australasian Winter Conference on Brain Research(Queenstown, August 2014)、World Congress of Psychophysiology(Hiroshima, September 2014)で発表した。この基礎データを軸に、キヌレン酸の前駆物質となるキヌレニンの行動薬理学操作を行うことで、末梢由来のキヌレニンとトリプトファンの脳内取り込みの促進が脳内キヌレン酸生成を亢進し、それらの増幅効果が中枢性疲労の誘発の引き金となることを明らかにした。この研究成果は第19回認知神経科学会学術集会(東京,2014年7月)にて若手奨励賞を受賞した。さらに、申請者は中枢性疲労の誘発機構に関するグリア-ニューロン回路間のトリプトファン代謝産物動態の網羅的解析を行うべく、ニューロンシナプス前の摘出に成功した。その解析により、海馬と視床下部組織のニューロンシナプス前トリプトファン濃度の上昇を伴うが、セロトニン生成は亢進しないことを明らかにした。現在、グリア内のトリプトファン解析を進めており、更なる研究成果を加速させている。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度では、キヌレニンの行動薬理学的操作とニューロンシナプス前トリプトファン代謝産物動態の解析を行った。現在、グリアの脳内分離摘出に成功し、ニューロン-グリア回路間の役割を含めた末梢-中枢連関でのトリプトファン代謝産物動態の網羅的解析を進めている。さらに、認知機能との関係を網羅的に検索し、研究を加速させている。
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