研究課題/領域番号 |
14J12594
|
研究機関 | 愛知県立芸術大学 |
研究代表者 |
七條 めぐみ 愛知県立芸術大学, 大学院音楽研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2016-03-31
|
キーワード | 音楽学 / 西洋音楽史 / ヨーロッパ近世史 / 楽譜出版 / 国際情報交換 / フランス:オランダ |
研究実績の概要 |
本研究は、バロック時代のフランス音楽の受容と伝播において、アムステルダムの楽譜出版が果たした役割を明らかにすることを目的としている。平成26年度は、ジャン=バティスト・リュリ(1632-1687)のオペラに関して、アムステルダムで出版された器楽編曲版とフランスの楽譜資料との比較を行った。また、出版者の販売カタログを調査し、出版譜の伝播の可能性について考察した。なお本研究は、愛知県立芸術大学とパリ=ソルボンヌ大学によるコチュテル〔博士論文共同指導〕として行われている。平成26年度は指導委託期間としてパリに拠点を置きながら、ソルボンヌ大学のラファエル・ルグラン教授のもとで研究を進めた。 17世紀のフランス音楽を代表するリュリのオペラはアムステルダムにおいて、器楽編曲の形、いわゆる「組曲版」として数多く出版された。昨年度は、このような組曲版から《アルミード》と《カドミュスとエルミオーヌ》を取り上げ、パリの初版スコアやオペラの抜粋楽譜と比較し、編曲の手法を分析した。その結果、組曲版では旋律を担当するパートが強調されている点と調性のまとまりが作られている点で、器楽曲としての性格が強く表れ、さらにはイタリアのトリオ・ソナタの書法が用いられていることが分かった。 また、出版譜の受容という観点から、18世紀の楽譜販売カタログにおけるアムステルダム版の分布状況を調査した。その結果、パリのバラール、ボワヴァン、ルクレールや、ベルリンのフンメル、ハンブルクのマインのカタログにアムステルダムのロジェによる出版物が見られ、出版者相互の国際的な楽譜のやり取りがあったことが分かった。一方、バラールとロジェの間でフランス音楽の出版レパートリーが異なることから、今後はパリとアムステルダムの出版動向がどのように影響し合っていたのかに注目する必要があると考える。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度には博士論文の核となるアムステルダムの出版譜をロンドン、ウィーンで収集し、パリの楽譜史料を用いた様式分析を進めることができた。また、ベルリン、アムステルダム、ハーグでの資料調査を行うことで、アムステルダムの出版譜の受容について、一定程度の予測を立てることが可能となった。 さらに、本研究は愛知県立芸術大学とパリ=ソルボンヌ大学のコチュテルとして行われていることを生かし、両大学の教授から研究指導を受けるだけでなく、ヨーロッパ滞在中にはアムステルダムの楽譜出版の専門家であるルドルフ・ラッシュ氏(ユトレヒト大学)からも有益な助言を受けることができた。これらの成果を、ソルボンヌ大学の古楽研究会および日本音楽学会において発表した。
|
今後の研究の推進方策 |
1.フランス音楽の出版動向の解明 アムステルダムでは1682年から1744年にかけてフランス音楽の出版・販売が行われた。先行研究では、ロジェを中心に出版物の内訳が明らかにされているものの、その年代的な変化に注目し、パリの出版事情と照らし合わせて分析する視点が欠けている。そこで本年度は、パリとアムステルダムの楽譜の出版カタログ、および新聞・雑誌に掲載された広告を相互に比較することで、アムステルダムでどのようなジャンルや作品が選択的に販売されたのかを明らかにする。また、出版物全体に占めるフランス音楽の割合や、イタリア・イギリス・オランダ音楽との比重の変化にも注目しながら、出版者による「フランス音楽」の枠組みがどのように形成されたのかを論じる。 2.出版者による編曲手法の分析 フランス・オペラはアムステルダムの楽譜出版の主要なジャンルとなり、器楽曲のみを抜粋した「組曲版」として数多く出版された。このような版は、先行研究ではフランス・オペラとドイツの組曲をつなぐ存在として位置付けられてきた。本年度は昨年度に引き続き、リュリのオペラを中心にパリとアムステルダムの楽譜を比較することで、組曲版における編曲手法の分析を進める。その際、オランダにおけるフランス・オペラの上演の形態や器楽アンサンブルの編成の移り変わりにも目を配ることで、組曲版には当時の演奏習慣が反映されていたことを指摘する。そして、先行研究の見方を引き継ぎながらも、組曲版はオペラのアレンジ版としての性格に商業的な事情が加味されたものであると結論づけ、出版者がフランス音楽を「加工」した代表的な例として位置付ける。 本年度は、上記1の内容をソルボンヌ大学の古楽研究会で発表するとともに、これまでの成果全体を博士論文としてまとめる。
|