最終年度に当たる本年度は、主として研究課題「ソ連崩壊後の現代ロシア文学研究」の総仕上げとなる博士論文「ナショナルな欲望の回帰:1990-2000年代のロシア・ポストモダニズム文学の変容」の作成に取り組んだ。 本研究の目的は、ソ連崩壊後の現代ロシア文学のおよそ20年間にわたる変容過程を、90年代のロシアで大きな影響力を持った「ポストモダニズム」の文脈で解き明かすことであった。博士論文ではまず、西欧の思想潮流であったポストモダニズムがロシアに輸入された経緯を辿り、90年代前半のロシアで当時の若手理論家らによって西欧のオリジナルとは異なる独自の「ポストモダニズム」理論が確立されたことを明らかにした。本論では、ポストモダニズムをめぐって西欧とロシアの間に存在するこうした重要な差異を基点に、様々な作家・ジャンルの作品を幅広く論じながら、ソ連崩壊後の現代ロシア文学に今なお強固に残存するナショナルな欲望を浮き彫りにした(本年度の研究実施計画にあった「現代ロシア文学におけるソ連表象」は博士論文第五章に当たる)。この博士論文の完成をもって本研究の目的はおおよそ達せられたと考える。 なお、博士論文の第四章に当たるユーリー・マムレーエフ論については、学術雑誌『スラヴ研究』に論文を掲載し、2015年8月に幕張で開催された国際学会「ICCEES」にて報告を行った。 また、博士論文で取り上げた主要な作家の一人であるウラジーミル・ソローキンの長編『ブロの道 氷三部作1』の翻訳書を河出書房新社より出版し、雑誌「早稲田文学」においてソローキンの最新長編『テルリア』の翻訳連載を行った。
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