研究課題
本研究ではイネの根の生理形質が窒素吸収へ及ぼす影響や,根圏環境が根の生理機能に及ぼす影響を解析し、窒素吸収能に関与する根の生理形質を特定することを目的としている。平成27年度は①平成26年度に圃場栽培したイネ根サンプルからのRNA抽出法の検討と、②人工気象室を用いたイネの窒素施肥応答に関するポット栽培試験を行った。以下に結果の概要を記す。①圃場栽培したイネ根サンプルからのRNA抽出法平成26年度に圃場条件下でイネを栽培した結果、最高分げつ期までの根のRNAは慣行法で抽出することができたが、出穂期以降の根については抽出量が不十分であった。生育ステージの違いによる抽出効率の変動には、根の老化により生きた細胞数が減少しサンプル中のRNA濃度が低下したことや、根組織中に糖類などの夾雑物が蓄積することによりRNA抽出が阻害されたことが要因として考えられた。そこで、通常の10倍程度の多量のサンプルを投入し、前処理試薬で多糖類などの夾雑物を除去したのちに、フェノールとクロロホルムによりRNA抽出を行うことで、安定的に高濃度のRNAを抽出する方法を確立した。②イネの窒素施肥応答に関するポット栽培試験異なる窒素施肥量に対するイネの根の生理形態的な応答性と、その品種間差異について調査した。インディカ型品種タカナリとジャポニカ型品種コシヒカリの窒素吸収量は、高窒素レベルと中窒素レベルではタカナリがコシヒカリを上回ったのに対し、低窒素レベルではタカナリの地上部窒素濃度がコシヒカリよりも低下した結果、窒素吸収量は品種間で同程度となった。主要なアンモニウムトランスポーターならびに硝酸トランスポーターの遺伝子発現解析を行った結果、いくつかの輸送担体において窒素レベルの違いに対する発現応答の品種差異が認められた。このほか根形態や吸水関連形質と窒素吸収との関係についても調査した。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度は、圃場から採取した幅広いステージの水稲根から、遺伝子発現解析を行うための第一ステップとなるRNA抽出を可能にする方法を確立することが出来た。出穂期の生理形質はイネの収量形成過程における重要なポイントの一つであることから、この時期のサンプルからのRNA抽出を効率的に行う手法を確立することは非常に意義深い。次年度は水田での栽培試験に取り組むことから、本手法を活用して、野外環境においてイネがどのように窒素吸収に関連する遺伝子の発現を制御しているかについて調査する。
平成28年度は野外の水田圃場においてイネを栽培し、水田環境下での根系発達や遺伝子発現動態、さらにそのインディカ-ジャポニカ品種間の違いを明らかにする。また、解析可能な遺伝子の種類を増やすために、インディカ品種とジャポニカ品種で共通に解析ができる新規プライマーを設計し、遺伝子発現解析を行う。
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Plant Production Science
巻: 19 ページ: 173-180
10.1080/1343943X.2015.1128090
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10.1626/pps.18.246