研究課題/領域番号 |
14J40030
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
松波 麻耶 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 東北農業研究センター 生産環境研究領域, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2018-03-31
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キーワード | アンモニウムトランスポーター / イネ / 硝酸トランスポーター / 窒素吸収 / 根 |
研究実績の概要 |
イネの無機窒素輸送を担う遺伝子の発現解析を行うため、まず主要なアンモニウムおよび硝酸トランスポーターについて、インディカ・ジャポニカ品種共通に解析できるプライマーを作成した。このプライマーを用いて、根における窒素輸送関連遺伝子の発現量を調べた結果、生育期間を通じて多く発現していたのはアンモニウムトランスポーターであるOsAMT1;1とOsAMT1;3であることが判明した。一方、硝酸トランスポーターは水田環境下ではほとんど発現が認められなかった。OsAMT1;1の発現量は生育ステージの進展に伴い減少したのに対し、OsAMT1;3は生育ステージの進展に伴い発現量が増加していく傾向が認められた。既往の研究報告では、OsAMT1;3は窒素飢餓条件で発現が誘導される遺伝子とされている。本研究のOsAMT1;3の発現挙動が、土壌中の窒素量の減少に応答したものか、或いは生育ステージの進展に伴う植物側の生理的要因かは判然としなかったが、フィールド環境下ではイネが窒素吸収を担う輸送担体の役割配分を生育ステージや環境によって制御しながら、登熟後期まで土壌からの窒素吸収を維持していることが示された。 水田環境下ではほとんど発現が認められなかった硝酸トランスポーターだが、2014年に間断的な灌漑処理をした圃場から採取した根の遺伝子発現解析を行ったところ、OsNRTの1型で湛水区の1.5~4倍程度、2型では20~60倍と著しい発現誘導が認められた。間断灌漑では土壌が好気的な条件となるため、土壌中の硝酸態窒素の割合が増加すると考えられるが、今回の遺伝子発現解析の結果から、このような好気的な土壌条件ではイネが硝酸態窒素を積極的に取り込むことが示された。 今回確立した手法により、今後様々な環境条件や幅広いステージで発現解析を行うことで、イネの窒素吸収メカニズムの理解が深まるものと期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度までの研究成果により、これまで困難とされた野外圃場で栽培された幅広い生育ステージの水稲根から高純度のRNAを抽出する方法を確立することができた。平成28年度はその手法を利用して、フィールド環境下での根における窒素輸送関連遺伝子群の発現解析とその品種間差異の検討を行うことができた。対象とした遺伝子は、すべてのアンモニウムトランスポーターや硝酸トランスポーターを網羅しているわけではないが、根での窒素吸収に主要な働きを示す遺伝子については、概ね解析ツールを整備することができた。これまでの作物学のフィールドでの表現型計測に、新たに分子生物学的手法を融合させることで、イネの窒素吸収の理解を深めることができる画期的な成果である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度はこれまで得られたフィールド試験ならびにポット栽培試験の結果をまとめ、様々な生育ステージおよび環境条件下での根の形態発達や窒素輸送関連遺伝子の発現動態とそれらの品種間差異を整理し、学会発表ならびに論文投稿の準備を行う。
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