研究実績の概要 |
これまでの研究成果により、圃場栽培した幅広い生育ステージの水稲根からRNAを抽出する方法を確立するとともに、主要な窒素の輸送担体についてのプライマーの整備を行った。遺伝子発現解析に用いる内在性コントロール遺伝子は、既往の研究で広く利用されている遺伝子を用いたが、フィールドで栽培した水稲根では、生育ステージが進むほど、これら遺伝子の発現レベルも大きく低下してしまうことが分かった。そこで、今年度は内在性コントロール遺伝子として有望な、より安定的発現を示す遺伝子を探索し、フィールドにおける水稲根の遺伝子発現解析手法を高度化することを目指した。 TATA-binding proteinならびにCyclin domain containing proteinをコードする遺伝子の発現レベルを既往のコントロール遺伝子(Actin, Ubiquitinなど) と比較した。圃場栽培した水稲根を用いて、リアルタイムPCR解析を行った結果、生育期間を通じて全く発現が変動しない遺伝子は無かったものの、新規遺伝子は、従来のコントロール遺伝子よりも優れた安定性を示した。 この内在性コントロール遺伝子を用い、フィールドでの水稲の根における遺伝子発現の日周変動や生育ステージでの変遷を解析した結果、フィールドにおける遺伝子の外部環境に対するダイナミックな応答性、各遺伝子間の共発現性、植物体内での水と窒素の輸送・代謝の関係についても興味深い結果が得られた。 本研究では、分子生物学的手法に馴染みのない研究者でも取り組みやすいよう、簡便なRNA抽出法を提案した。これらの技術を活用し、多くのフィールド研究者が作物の実際に生育する場であるフィールドでの遺伝子発現動態を明らかにしていくことで、分子生物とフィールドサイエンスの双方の理解と発展が進み、革新的な品種開発や栽培技術の向上に寄与するものと期待している。
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