研究課題
昨年度の解析からPcgf1が造血幹細胞の分化決定において骨髄球系分化の抑制因子として機能していることが示唆された。本年度はPcgf1の表現型がPcgf1と同じファミリー分子で造血幹細胞の機能維持に重要な役割を果たすことが明らかになっているPcgf4/Bmi1の過剰発現でレスキューされるか検証した。Pcgf1遺伝子コンディショナルノックアウトマウスとPcgf4/Bmi1過剰発現マウスを交配し、コンパウンドマウスを作成した。このマウスの造血における表現型を観察したところ、Pcgf1遺伝子コンディショナルノックアウトマウスとほぼ変わりがなく、Pcgf1の機能はPcgf4/Bmi1の過剰発現ではレスキューされないことが明らかとなった。次にPcgf1遺伝子欠損HSC(Hematopoietic stem cell)もしくはMPP(Multipotent progenitor)分画を用いてRNA-sequenceを行った。その結果、Pcgf1欠損細胞では骨髄球の分化に重要な役割を果たすCebpa遺伝子が脱抑制していることがわかった。また、LSK(Lin-Sca1+c-Kit+、造血幹/前駆細胞)分画を用いたH2AK119ub1のChIP-sequenceから、Pcgf1遺伝子欠損細胞ではCebpa遺伝子座のH2AK119ub1レベルが低下していることが明らかとなった。Pcgf1は複合体PRC1.1 の構成因子で、H2AK119をub1化することで遺伝子発現の抑制的制御に寄与していることから、Cebpa遺伝子はPcgf1の直接の標的遺伝子であり、Pcgf1遺伝子欠損マウスで分化が骨髄球系に強く偏るのはCebpa遺伝子発現の抑制が正常に機能していないためだという可能性考えられた。今後はCebpa遺伝子の発現を抑えることによってPcgf1遺伝子欠損マウスの表現型がレスキューされるか検証する。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の計画ではRNA-sequenceやChIP-sequenceは3年目に行う予定だった。しかしながら、Pcgf1コンディショナルノックアウトマウス、Bcorコンディショナルノックアウトマウス共に本年度に行うことができた。さらにPcgf1に関しては、その結果を詳しく解析することにより重要な標的遺伝子の候補として骨髄球分化のマスター制御因子であるCebpa遺伝子を挙げることまでできた。Bcorコンディショナルノックアウトマウスに関しては詳しい解析はこれからであるが、解析の結果、表現型を説明する分子基盤が明らかになることが期待される。
Pcgf1コンディショナルノックアウトマウスに関しては標的遺伝子の候補としてCebpa遺伝子が挙がってきた。今後は、ウイルスを用いたノックダウン実験やCebpaノックアウトマウスとの交配によりCebpa遺伝子の発現亢進を抑制することによりPcgf1の表現型がレスキューされるか検証する。Bcorコンディショナルノックアウトマウスに関しては昨年度行ったRNA-sequence、ChIP-sequenceの詳しいデータ解析を行う。また、Bcor遺伝子変異と病態発症の関わりを明らかにするために、骨髄球やT細胞の前駆細胞を用いた培養実験やT-ALL細胞を用いたRNA-sequenceを行う予定である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件)
PLoS One.
巻: 10 ページ: e0132041
10.1371/journal.pone.0132041
Genes Cells
巻: 20 ページ: 590-600
10.1111/gtc.12249