研究実績の概要 |
これまでにPcgf1遺伝子は造血幹細胞の分化決定において骨髄球系分化の抑制因子として機能していることが示唆されている。Pcgf1遺伝子欠損マウスでは骨髄球関連遺伝子群の発現が造血幹細胞・多能性前駆細胞において異所性に活性化していること、特に顆粒球分化において重要な役割を果たすC/EBPα, C/EBPε遺伝子の発現が脱抑制していることが明らかになった。主成分分析では、Pcgf1欠損多能性前駆細胞(MPP)が骨髄球前駆細胞(GMP、PreGM)様の発現パターンを示すことが示された。また、Pcgf1欠損造血幹細胞を骨髄球分化条件下で培養したところ、骨髄球増殖活性の顕著な増強を示した。このことは定常状態においてはPcgf1が造血幹細胞・多能性前駆細胞の骨髄球分化決定および骨髄球系細胞増殖の抑制因子として機能していることを示唆する。 一方、Pcgf1と同様にPRC1.1の構成因子であるBcor遺伝子欠損マウスは300日までに約半数が急性Tリンパ芽球性白血病 (T-ALL) を発症することが明らかになった。T-ALL腫瘍細胞の遺伝子発現解析を行ったところ、T-ALLにおける重要なNotch標的遺伝子として知られるc-Myc、さらにはc-Myc標的遺伝子群の発現が亢進していることが明らかとなった。BcorはCD4+CD8+胸腺T前駆細胞においてc-Mycプロモーターに結合すること、Bcl6遺伝子欠損胸腺細胞も類似の遺伝子発現プロファイルを示すことから、BcorはBcl6と協調してc-MycをはじめとしたNotch標的遺伝子の発現を抑制的に制御することで、がん抑制遺伝子として機能していることが明らかとなった(Tanaka*, Nakajima-Takagi* et al., J Exp Med改定中 *Equal contribution)
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