研究課題/領域番号 |
14J40047
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
伊藤 美智子 東京医科歯科大学, 医歯学総合研究科, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2018-03-31
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キーワード | 慢性炎症 / マクロファージ / Crown-like structure |
研究実績の概要 |
非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)はメタボリックシンドロームの肝臓における表現型であり、慢性炎症から組織リモデリングに至る病態である。申請者らは既に、独自に確立したNASHモデルであるメラノコルチン4型受容体欠損マウス(MC4R欠損マウス)を用いて、NASHの肝臓では細胞死に陥った肝細胞をマクロファージが取り囲む構造(hCLS: hepatic crown-like structure)が多数認められ、hCLSが炎症・線維化の起点となって肝線維化の発症に関与することを報告している。本研究では、NASH発症過程におけるマクロファージ走化性因子MCP-1とその受容体であるCCR2系の関与を検討した。MC4R欠損マウスに対して野生型あるいはCCR2欠損マウスの骨髄を移植し、4週間の回復期間をおいた後に、20週間の高脂肪食負荷によってNASHを誘導した。肥満のMC4R欠損マウスでは脂肪組織における浸潤マクロファージ数および細胞死に陥った脂肪細胞をマクロファージが取り囲むCLSの数が増加するが、骨髄のCCR2を欠損するとこれらの変化は認められなくなった。一方、肝臓の非実質細胞分画を用いてFACS解析を行うと、NASHの肝臓ではF4/80を高発現する常在性マクロファージには変化がなく、CD11bを高発現する浸潤性マクロファージの増加が認められた。骨髄のCCR2を欠損するとF4/80高発現マクロファージ数には変化がなく、CD11b高発現マクロファージが著明に減少した。しかしながらhCLS数には変化がなく、活性化筋線維芽細胞マーカーであるαSMAの陽性面積および線維化面積にも変化は認められなかった。以上から、hCLSはF4/80高発現マクロファージが中心となり、MCP-1/CCR2系非依存的に形成されると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は申請者が中心となって確立した新規マウスモデルを用いて、肝線維化の起点と考えられるhCLS形成に対するMCP-1/CCR2系の関与を検討した。骨髄移植実験にて組織学的解析、遺伝子発現レベルの解析に加え、FACS解析によって、NASH病態形成過程における単球・マクロファージの動態と肝線維化との関連が明らかになった。細胞死に陥った細胞とマクロファージが相互に作用する場であると考えられるCLSは、肥満脂肪組織・NASHの肝臓に共通して認められるが、その構成マクロファージの動態は異なることが示唆された。CLS構成マクロファージの動態および機能的変化を明らかにすることで、各臓器における線維化発症の分子機構に対する理解が深まることが期待される。
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今後の研究の推進方策 |
NASHの病態形成過程においてマクロファージの由来は均一ではなく、さらにマクロファージの機能・分布が局所的に変化してhCLSという構造を形成することで、炎症・線維化の起点となることが示唆されている。マクロファージの動態に関しては、adoptive transferや蛍光色素を用いたトレーシング実験など複数の実験を組み合わせることで、hCLSの形成過程を明らかする。さらに、hCLS局所におけるマクロファージの機能的変化を捉えるため、ソーティングあるいはマイクロダイセクションによりhCLS構成マクロファージを単離し、網羅的解析を行う。また、脂肪組織における線維化が脂肪蓄積機能を障害し、肝異所性脂肪蓄積を促進すると考えられるため、CLS数と線維化発症の経時的変化を検討し、FACS解析や組織学的解析などによってマクロファージの極性変化や線維化関連細胞の分布を明らかにする。
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