本研究は、米国、日本、朝鮮の三地域のコリアン・ディアスポラ文学の比較研究である。最終年度は以下ような成果を得た。 一、資料調査と聞き取り調査 1.在日朝鮮人文学関連の雑誌、単行本調査を米国プランゲ文庫および日本の図書館で行い、資料の入力と整理作業を行った。プランゲ文庫で占領期の在日関連の検閲新聞の調査も進めた。2.ハワイ大学マノア校図書館で資料渉猟を行い、194、50年代のハワイへの初期朝鮮人移民関連資料を収集した。三人のコリアン・アメリカンの方々への聞き取り調査も実施した。 二、学会報告 1.世界文学・語圏横断ネットワーク主催の研究集会で、「「帝国語」以後―在日朝鮮人作家の二言語葛藤」を発表。植民地期とポスト植民地期の言語環境の連続性、非連続性について考察した。2.韓国の第5回韓国日本研究団体国際学術大会「東アジアの人文精神と日本研究」で、「金石範作品における翻訳、スパイ、アメリカ」を報告。在日朝鮮人作家の作品に頻出する「通訳、翻訳者」を手がかりに、日米のコリアンディアスポラ作家をつないで論じた。3.早稲田大学の朝鮮文化研究会で「宗秋月の作品世界」発表。女性作家・宗秋月の「在日朝鮮人文学史」、「コリアンダイアスポラ文学史」の中での位置づけを論じた。 三、論文発表 1.「在日朝鮮女性の歴史叙述に向けて」(『歴史評論』)執筆。新聞、雑誌、作文、文芸作品を用い、在日朝鮮人のジェンダー史の可能性を文学と歴史の側面から探った。2.「金石範文学におけるスパイ、通訳、アメリカ:複数の朝鮮文学をつなぐために」(『日本学報』)執筆。これまでの資料調査や先行研究調査を踏まえ、朝鮮人の移動と文学の関連様相を本格的に論じる基礎を作った。 四、図書刊行 『在日朝鮮人文学作品集』(全三巻)刊行。入手困難な195、60年代の在日文芸誌を収録し詳細な解説と年表を付した。
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