研究課題/領域番号 |
14J40100
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
木村 生 慶應義塾大学, 医学部, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | 衝動性 / 線条体 / 側坐核 / D2 medium spiny neuron / 意欲 / 遺伝子改変動物 |
研究実績の概要 |
採用一年目は「内側前頭前野から側坐核への投射による衝動性の調節には、側坐核内のどの受容体分子が関与するか?」に取り組んだ。線条体の投射型ニューロンであるmedium spiny neuron (MSN)には、ドパミン受容体1型とドパミン受容体2型(D2)を有するものに大別出来るが、このうち、D2-MSNにのみジフテリアトキシン(DTA)蛋白を発現させることのできる遺伝子改変マウス(D2-DTA mouse)を用いて、側坐核におけるD2-MSNの衝動性における役割を明らかにする実験を行った。このマウスはドキシサイクリン存在下でDTAの発現を抑制できるため、衝動性を測るオペラント課題(3-選択反応時間課題)をマウスに学習させた後に、ドキシサイクリン餌から普通餌に切り替え、衝動性の変化を観察した。その結果、普通餌に切り替えた後5~10日に意欲の指標が悪化し、14日目に衝動的行動の顕著な上昇が観察された。注意機能や食欲、運動量は実験を通して変化がなかったことを確認した。In situ hyblidization法を用いて、D2 mRNAの発現分布を確認したところ、普通餌切り替え後5~10日では外側側坐核のD2 mRNAが除去されており、14日後には内側側坐核までD2 mRNAの除去領域は広がっていたことが分かった。このことから、内側側坐核D2-MSNは衝動的行動の抑制に関わり、一方で、外側側坐核D2-MSNは意欲の維持に関わることが示唆された。当該成果は現在論文投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の目的は①内側前頭前野から側坐核への投射経路の衝動性における役割の解明と、②側坐核内の衝動性に関与する受容体分子の同定である。初年度は遺伝子改変動物を使用して、②の受容体分子がD2受容体であることを明らかにした。ドパミン受容体サブタイプに選択性の高い薬剤は存在しないため、本研究成果は遺伝子改変技術を駆使して初めて得られた知見である。ただし、側坐核におけるもう一つの主要な受容体分子であるD1受容体に関してはいまだ検討に至っていない。また、ジフテリアトキシンを用いた細胞除去という手法では、D2-MSNの脱落によって周囲の細胞ネットワークが変化する可能性があり、その可能性を排除するべく、よりacuteな細胞活動抑制実験を用いて、D2-MSNのactivityと衝動性の関係を確かめる必要性があるため、今年度の達成度は(2)とした。
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今後の研究の推進方策 |
【現在までの達成度】でも述べたように、側坐核のD1-MSNの衝動性における役割を追及する必要がある。受入れ研究室には、D1受容体陽性細胞を特異的に操作できるマウスが既に存在するが、このマウスは遺伝子操作の組み合わせによっては、潜在的に自発行動量や攻撃性が高い性質を発現してしまうことが分かっている。ノックイン領域を変えるなどの工夫が必要である。また、よりacuteなD2-MSNの活動抑制を実現するためにD2-MSNに光抑制性分子であるArchTを発現させたD2-ArchTを用いて、3-選択反応時間課題中のD2-MSNの活動を抑制する実験を今年度は重点的に行う。この時、光照射するタイミングが重要となるので、光操作実験の前に、課題中のD2-MSNの活動をin vivo Ca imaging (FRET)を用いて観察することとする。受入れ研究室にはFRET計測システムやインジケーターを発現したD2-YCマウスが既に存在するので、導入は比較的速やかに行えると考えている。この観察実験で、衝動性抑制に重要なD2-MSNの活動変化のタイミングをとらえ、光操作でそのwindowのD2-MSNの活動を抑制し、行動変化を観察する、という実験を行う。
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備考 |
第88回薬理学会年会 優秀発表賞 受賞(2015年3月19日)
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