本研究では、裁判員制度における評議を、道徳的嫌悪感情を伴う専門家‐非専門家による集団意思決定過程と捉え、これを統合的に理解するために4つの研究―(1)判例データベースを用いた裁判員裁判施行後の判決文の特徴の把握、(2)刑事事件の被告人に対する一般市民の道徳的嫌悪感情と法的判断の関係、(3)道徳的嫌悪感情を伴う直感的な法的判断における専門家の影響、(4)評議における手続二分論的運用の効果性の検討―を展開する。
今年度は、研究実施計画に沿い、(1)の研究を実施するために判例データベース(LEX/DB)を利用して判決文を取集した。事前の計画では性犯罪事件と求刑以上の判決がなされた事件を対象とすることにしていたが、より多くの事案を網羅するために、制度施行前後3年、合計6年間で判決が出た裁判員裁判対象事件すべてに関する情報を収集した(データベースに収録されているものに限る)。取得データの内容は、求刑・判決・判決文に加え、罪名や裁判所名、裁判長名など、対象としたデータベースに収録されている情報すべてである。のべ件数は1500件程度となっており、この後データのクリーニングを行い重複しているものなどを削除する予定である。判例データベースを用いてこのような数の判決文データを収集し、分析した研究はこれまでにはなく、分析結果は重要性が高いと考えられる。
加えて、(2)の研究を実施するために刑事事件のシナリオを専門家の協力のもと作成した。事前の計画では複数の刑事事件を対象とすることを想定していたが、より現実場面(裁判員裁判における判断)に近づけるために、殺人未遂事件の詳細が示されているシナリオを利用することとした。専門家に監修してもらったことで、刑事事件としての不自然さを極力なくすことができた。
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