平成27年度は、研究計画に示した通り、以下の3つのテーマのもとに研究を実施した。
まず、前年度に作成した刺激セットを用いて、刑事事件の被告人に対する一般市民の道徳的嫌悪感情と法的判断の関係を検討する質問紙実験を複数回実施した。対象は裁判員に任命される可能性のある20歳以上の成人とし、幅広い年齢層からデータを収集した。実験デザインは、道徳違反の種類(Haidt (2000)に基づき、道徳基盤の中でも裁判員裁判や日常触れる機会が多い事案)(4:セクハラ、小動物に対する危害、詐欺、窃盗)を独立変数とした被験者内1要因計画で、加害者側に同情的な側面がある場合と、罪を償った後という場合を対象として道徳的嫌悪感情の種類や道徳違反の程度について測定した。現在得られたデータを分析中である。次に、他者の意見が道徳的嫌悪感情を含む法的判断に影響を及ぼす可能性について検討した。道徳違反の程度がゆるい判断分布図を用いて、参加者の意見が変容するかどうかを検討した結果、詐欺罪に関しては他者の意見に影響されて道徳違反を軽く見積もる方向に意見が変容したが、セクハラや小動物に対する危害、窃盗に関しては他者の意見の影響を受けにくいことを示した。最後に、前年度から継続して、判例データベースから収集した裁判員裁判対象の判決文や事件の概要をもとにカテゴリー化し、量的、質的側面を裁判員制度開始前後で比較する作業を行った。
道徳違反行動そのものや違反者に対する一般市民の反応について、さまざまな側面から比較・検討しており、知見の一般化に向けて順調に検討を進めている。
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