研究課題/領域番号 |
14J40138
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
的場(藤井) 千佳世 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | スピノザ / 短論文 / ストア派 / 摂理 / 個物認識 / フランス科学認識論 / スピノザ主義 |
研究実績の概要 |
「ストア哲学との対比を背景にしたスピノザ認識論の生成史的研究」という本課題において、本年度の研究テーマは、スピノザの初期の著作『短論文』と主著『エチカ』の認識論、特に個物認識についての考え方を比較し、それぞれの著作におけるストア派からの影響の受け方の変化を検討することであった。この観点から次の研究を行った。1)『エチカ』第四部付録におけるストア派からの影響の分析、2)『短論文』の摂理概念から『エチカ』のコナトゥス概念への展開の分析、3)スピノザのコナトゥス概念とストア派のオイケイオーシス論の比較。ここから次の点が明らかになった。『短論文』の摂理概念に見られるストア派からの影響の痕跡は、『エチカ』にも残っているが、しかし、幸福を、全体における一部分として役割を遂行することとみなす『短論文』と、部分において全体が顕現していることの認識によって最高の満足へと至る『エチカ』では、倫理的意義が大きく異なり、この個物認識の観点から、スピノザ自身による最終的なストア派に対する批判を理解することができる。 また本研究は、理性と生の活動の連続性という観点から、ストア派-スピノザ-フランス科学認識論の思考の系譜付けを目指すものである。特に、スピノザ-フランス科学認識論の連関に関し、スピノザ主義の観点から、カヴァエスの概念の哲学からカンギレムの生命の哲学への展開に注目することで、20世紀半ば以降、スピノザ哲学がエソロジーの観点から注目されるようになった背景、さらにスピノザ主義が、ヘーゲルやベルクソンといった生の問題を主題とした他の哲学者との関係で、どのような意義をもつものとして位置付けられるようになったのかを明らかにすることができた。また、個体の認識の問題に関しても、カンギレムの生物学モデルの哲学における個体概念の検討を通して、エソロジーとしてのスピノザ主義の個体論としての可能性を確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は、スピノザの個体概念の特徴の解明に重点をおいて研究を進めたのに対し、今年度は次の二つの主題に関して研究を進めた。まず、『短論文』と『エチカ』というスピノザの二つの著作を中心に、ストア哲学からスピノザ哲学に対する影響関係をとりわけオイケイオーシス論に確認すると共に、スピノザ哲学の特異性をその個物概念に見出すに至った。次いで、スピノザの認識論の現代的意義を解明するために、これまでの研究を拡大する形で、カヴァイエスとカンギレムのスピノザ主義の解明を行い、動物行動学の観点からスピノザ主義における個体論の意義を明らかにした。前者に関しては、6月に開催されるスピノザ協会総会における発表が決まっており、後者に関しては、日仏哲学会大会シンポジウムにおいて報告を行い、同学会の学会誌への掲載が決定している。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究成果を活字にして公刊していくとともに、これまでの研究によって明らかにしてきたスピノザの個物認識についての考え方を、スピノザ哲学における「合一」概念、「神の愛」についての考え方の変遷の過程において確認していく。また近世哲学におけるストア派の受容という観点から、スピノザのストア派理解におけるリプシウスの影響も確認しつつ、これまでの研究成果に反映させていきたい。これらの研究成果を総括する形で、理性概念の変遷に注目したスピノザ認識論の生成的研究として、著作の刊行を目指す。
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