①「ストア哲学との対比を背景にしたスピノザ認識論の生成史的研究」という本課題において、本年度の研究テーマは、これまで認識論、個体論の観点から行ってきたスピノザ認識論の生成史的研究をストア派からの影響という観点から検討することであった。この観点から次の研究を行った。1/従来の諸解釈におけるスピノザとストア哲学の比較のされ方の確認、2/スピノザが具体的に対峙していたストア派のテクストの確証、3/初期の著作『短論文』から主著『エチカ』にかけてのスピノザのストア哲学に対するスタンスの変化の検討。この研究から、スピノザのストア哲学についての示唆に関して、具体的にセネカの『倫理書簡』第121書簡、キケロの『善と悪の究極について』第五章との対応が確認できた。これらのテクストは、特にストア哲学の「オイケイオーシス」論の展開としてしばしば引用される箇所であり、実際にスピノザと同時代においてもこのストア派のオイケイオーシスという概念が知られたものであったということを、当時広く読まれていたグロティウスの著作において確認した。以上の研究を通して、スピノザとストア派の比較というと、一般には、自由意志や摂理が問題にされることが多いが、こうした問題の背景には、個物の本質の認識の問題があり、スピノザのストア哲学への接近と離反は、この個物認識に関するスピノザの考え方の変化に関わっているということを明らかにした。 ②本研究は、理性と生の活動の連続性という観点から、ストア派-スピノザ-フランス科学認識論の思考の系譜付けを目指すものである。特に、スピノザーフランス科学認識論の連関に関し、これまで行ってきたスピノザ哲学とカンギレム哲学の比較研究を、カンギレムの独特な主体概念・個体概念を明らかにする仕方で発展させた。
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