研究課題/領域番号 |
14J40147
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研究機関 | 独立行政法人国立環境研究所 |
研究代表者 |
澤田 寛子 独立行政法人国立環境研究所, 生物・生態系環境研究センター, 特別研究員(RPD)
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研究期間 (年度) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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キーワード | オゾン収量影響 / 量的形質遺伝子座解析 / 玄米品質 |
研究実績の概要 |
アジアの発展途上国において大気汚染物質であるオゾン濃度は今後もさらに上昇すると予測され、作物の生育や収量への影響が懸念される。インディカイネはオゾン濃度上昇による収量低下が著しいが、そのメカニズムは未だ解明されていない。本研究ではインディカ品種を対象に、染色体断片置換系統群(CSSLs)を用いた量的形質遺伝子座(QTL)解析により、オゾン暴露による新たなイネの収量低下メカニズムの解明を目的とした。 インディカ品種カサラスのオゾンによる収量低下要因を調査したところ、総籾数の減少と登熟歩合の低下が大きな要因であった。登熟歩合の低下のうち、約80%が不稔によるものであり、胚乳の発育停止の割合は少なかった。ジャポニカ品種コシヒカリでは不稔と胚乳発育停止の割合は半々であったことから、カサラスの生殖器官に対するオゾンの直接的影響は大きいことが示唆された。 コシヒカリ/カサラス交配由来CSSLsを用いて収量についてのQTL解析を行った結果、第5染色体の後方にオゾン暴露によって顕著に影響を受ける領域が存在した。さらに、その領域は、総籾数においてもオゾンによる影響を受けていたことから、同領域にオゾンによる収量の低下に関与する遺伝子座が存在しており、その収量低下は総籾数の減少が主要因であることが示唆された。これは先行研究とは異なるQTL領域であり、カサラスでは新規な遺伝子の作用により、収量の低下が生じることが示唆された。 一方、オゾンの米の品質低下に及ぼす影響については、詳細な報告はほとんどない。我々は、オゾン添加区のコシヒカリ玄米において、未熟粒の増加、特に乳白粒が3倍以上増加することを発見した。さらに、オゾン添加区の乳白米断面の走査型電子顕微鏡観察の結果、アミロプラスト間の空隙や異形なアミロプラストが多数見られ、オゾンによりデンプン集積に異常が生じていることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の目的通り今年度の研究成果として、(1) インディカイネのカサラスではオゾンにより収量が低下し、その主要因は総籾数の減少と不稔の増加であること、(2) 第5染色体後方にオゾンによる収量低下に関与する新たな遺伝子座が存在すること、を明らかにすることができた。さらに、(3)ジャポニカ品種コシヒカリにおいて、オゾンにより玄米品質の低下が見られ、その要因としてデンプン蓄積の異常が関与していることを見いだした、など当初の計画を超えた成果を得ることができているため。
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今後の研究の推進方策 |
イネの収量はオゾン以外に年ごとの気象条件(日照、気温)にも左右されるため、1年目と同様のオゾン暴露試験を行って反復調査し、平成26年度の親系統及びCSSLsへのオゾン影響の再現性を確認する。さらに、1年目の調査から検出されたQTLを保持していたCSSLに親品種の戻し交雑を繰り返し、目的QTLの存在領域を絞り込むことが可能な系統群(準同質遺伝子系統群)を作出する。同時に、同定された染色体領域に、収量低下への関与が考えられる既知遺伝子が存在するか調査し、その候補遺伝子についてオゾンによる発現量の変化を、カサラスとコシヒカリの幼穂や穎花などの生殖器官において解析する。以上の結果から、オゾンによるインディカイネの収量低下に関与する新たな遺伝子の作用を推定する。 また、品質に関しては、デンプンやアミノ酸等の詳細な解析を行い、オゾンによるコメの品質低下に関わる要因を明らかにする。
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