本研究では、将来のアジア地域の食糧問題を改善するため、オゾン濃度上昇による収量低下が著しいインディカ型イネを対象に、オゾン暴露による新たなイネの収量低下メカニズムの解明を目的とした。また、ジャポニカイネはオゾンにより収量は低下しにくいが、米の品質が低下することが示唆されたため、国内産品種の米品質に及ぼすオゾンの影響、さらに地球温暖化の進行時に危惧される気温とオゾン濃度が同時に上昇した条件下における米の品質影響について解明することも目的とした。 インディカ品種カサラス、ジャポニカ品種コシヒカリおよびコシヒカリ染色体の一部をカサラスに置き換えた染色体断片置換系統群を用いてオゾン暴露試験を行い、各系統を収穫後、収量および収量構成要素を調査した。3年間の暴露試験結果を用いて量的形質遺伝子座(QTL)解析を行い、2年以上共通して検出される収量に関与する遺伝子座を同定した結果、第6染色体短腕上に精籾重等のオゾンによる低下に関するQTLがあると推定された。また、第3染色体短腕にオゾンによる登熟歩合の低下に関するQTLが座上することが推定された。現在、同領域に存在する既知の収量に関与する遺伝子発現量のオゾンによる変化を解析中であり、これらのQTL領域に存在する原因遺伝子の特定により、オゾン濃度上昇時でも収量が低下しにくいイネの育成に貢献できると考えられる。 次に、気温とオゾン濃度上昇の複合ストレスが国内産米17品種の外観品質に与える影響の品種間差異について解析した。単独のオゾン暴露または加温条件下でのオゾン暴露により多くの品種の白未熟粒が増加し、主に北日本で栽培される品種は感受性の高いことが明らかになった。また、白未熟粒の発生に対して、オゾンと気温との間に有意な相乗効果が認められる品種も多く、気温とオゾンが同時に上昇する条件において、米の白未熟粒発生が一層深刻な問題になることが危惧される。
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