本研究の目標は、1)反水素原子の分光、および2)反陽子ヘリウム原子の分光、により、物質・反物質の対称性(CPT対称性)を出来うる限りの高精度で検証することである。 反水素生成の詳細な研究の結果、1)反水素生成反水素生成においては三体過程が支配的であること、2)反水素の大多数が高励起状態にあること、3)反水素原子の速度分布が、環境温度に比して非常に大きいことが明らかとなった。すなわち、数百Hzで「大量」に生成される反水素の大多数は、精密分光には適さない。この状況を打開し、生成された反水素を超伝導多重極磁石によって捕獲することをめざし、我々は大型の超伝導ソレノイドに、超伝導八重極コイルとミラーコイルを組み合わせた装置を建設し、多重極磁場中でも磁場中でも荷電粒子を安定に閉じ込め、反水素原子を生成可能なことを示した。現在は、陽電子と反陽子め混合条件を変え、反水素の捕獲をめざした実験を行っている。 一方反陽子ヘリウム原子のレーザー分光は、本研究で飛躍的な進歩を遂げた。我々は1)反陽子線形減速器によって超低速に減速した反陽子を低密度ヘリウムガスに止める手法で衝突効果を取り除き、2)安定化された単一モードCWレーザーのパルス増幅と、3)光周波数コムによるレーザー周波数の絶対測定の手法により、陽子・反陽子のCPT検証精度2×10-9を達成した。また、この結果から、反陽子・電子質量比が1836. 152 674±0.000 005と決定された。これは、基礎物理定数表(CODATA 2006)に記されている陽子・電子質量比1836. 152 672 47±0.000 000 80にはまだ若干及ばないが、今後反陽子ヘリウム原子の分光精度を更に高めてゆけば、我々の実験が基礎物理定数の決定に貢献できる可能性が非常に高いことが明らかとなった。
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