脳におけるパターン形成機構を明らかにするためにショウジョウバエの視覚中枢をモデルとして、パターン形成に機能するシグナルの解析を行った。視覚の情報処理は光を受容した個々の細胞が脳に正確な空間情報を提示することから始まり、それは視覚系の正確な構築に依存している。ショウジョウバエは約750の個眼からなる複眼を持つ。1つの個眼あたり8種の光受容神経(視神経、R1-8)があり、R1-6はlaminaとよばれる脳の神経節に、R7-8はmedulla神経節に軸索を投射する。 (1)Wntシグナル 視神経の背腹軸に沿った投射パターンは視神経とlaminaにおいてそれぞれ独立にWntシグナルにより制御されていることが明らかとなった。Wntシグナルは、いくつもの異なった経路により信号伝達されることが知られており、Armadilloを経由するCanonical PathwayとそうでないNon-canonical pathwayに大別される。視神経においてはNon-canonical pathwayが機能し、laminaにおいてはCanonical pathwayが機能しているようである。laminaにおいて、Wntシグナルを活性化すると背側への投射が阻害され、逆にWntシグナルを不活化すると腹側への投射が抑制される。Wntファミリー遺伝子の発現を調べるとDWnt4がlaminaの腹側でのみ発現し、その変異においては、腹側へ投射するはずの視神経が背側に投射することから、DWnt4の腹側での発現が視神経の背腹軸に沿った投射パターンを規定していると考えている。 (2)Dppシグナル Dppはlamina神経叢を中心に分布するグリア細胞の分化を制御していることが明らかとなった。このグリア細胞の機能が失われると、視神経の正確な投射が阻害される。
|