ゲノム解析により多くのタンパクをコードする遺伝子が解明されつつあるが、今後は未知のタンパクの機能や変異が生命システムに及ぼす影響を迅速かつ簡便に評価することが必要になる。本研究では、多くのタンパクを基板上に固定化し、一度に評価できるシステムの開発を目指した。本年度は、代表的な核内転写因子であり、内分泌撹乱物質の標的タンパク質としても知られているヒトエストロゲンレセプター(hER)を固定化した電気化学素子を用いてリガンド依存的なタンパク質間相互作用の検出システムを開発した。 レセプタータンパク質の最も重要な機能はタンパク質-タンパク質間相互作用である。そこで我々は固体電極上に固定化したレセプターのリガンド誘導的なタンパク質複合体の形成を水晶振動子(QCM)法によって観察することを試みた。転写因子であるhERはホルモンとの結合によってシャペロンタンパク質(hsp90)を解離し、ついで遺伝子発現に必要なコファクター(SRC-1、RIP140など)をリクルートする。本研究ではこの一連のタンパク質間相互作用をQCM法によって追跡した。あらかじめhER-LBDとhsp90インキュベートし。これを測定溶液に添加したところ、222Hzの周波数変化が観察された。これは244ngのタンパク質が電極上に固定化されたことを示唆しており、これはおよそ2pmolの複合体に相当する。ここに天然女性ホルモン17β-エストラジオール1μMを加えたところ、周波数が42.1Hz上昇し、約0.5pmo1のhsp90が脱離したことが示唆された。本法はわずか15分と言う短時間においてタンパク質間相互作用の解析が可能であり、またラベル化反応等の煩雑な操作が不要なことからタンパク質間相互作用の新しいツールとして有効である。
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