研究概要 |
ヒト集団を想定し、過去に集団サイズの変化(創始者効果など)が起こった場合について、中立マーカー遺伝子の変異から計算されるTajima's D等の統計量の性質を明らかにした。またヒト集団での配列レベルでの多型データがSNPを探索する過程等で多く蓄積されてきているので、これらのデータを集団遺伝学的に解析し、特に日本人集団における過去の集団構造の特質を、他の集団と比較し、また自然淘汰が働いている可能性を検討した。 1.創始者効果があり集団サイズが一旦減少した後指数的に増加した場合を仮定して、中立遺伝子座での、Tajima's D等の中立統計量の性質について理論的に解析した。これまでこのような場合直感的に遺伝子系図が星形になると言われてきたが、この研究で集団サイズ増加率が増大すると漸近する系図をまず求め、この系図のもとでの統計量の平均・分散と分布及びその漸近の仕方を計算機実験により調べた。また系図が星形となる極限に関する条件も求めた。 2.ヒト複数集団におけるFut2,Pon1,Brca1,Complement 6の4遺伝子座での塩基配列多型データを解析した。日本人集団はアフリカ、ヨーロッパ人の集団に較べて塩基多様度は若干低く、またPon1遺伝子座では特に強い連鎖不平衡も見つかった。さらにTajima's D等の統計量も他集団より正の値を取ることが多く、比較的最近に集団サイズの減少あるいは複数集団の融合が起こった可能性が示唆された。また中立性のテストによりPon1を除く3遺伝子座で、自然淘汰が働いている可能性が示唆された。
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