遺伝子情報発現のための転写活性化あるいは抑制化にはクロマチン構造の変化が伴い、その分子機序の一つは、ヌクレオソームヒストンの化学的修飾(リン酸化、アセチル化、メチル化)であることが知られている。これまでの研究では、個々の遺伝子のヌクレオソームヒストンに焦点をあて、その化学的修飾と転写制御との関連が解析されてきたが、細胞機能発現における転写制御ネットワークの複雑性に鑑みれば、ヌクレオソームヒストンの化学的修飾を遺伝子全体について網羅的に捉え、遺伝子発現との関連を解析する研究が重要と考えられる。 近年、ヒストンH3の9番リジン残基のメチル化が、ヘテロクロマチンの形成と維持、およびユークロマチン領域における遺伝子特異的な転写抑制に関与することが知られ注目されている。われわれは、本特定領域研究において、主としてヒトの遺伝子プロモーター領域が固定された約2万個のスポットを有するCpGマイクロアレイを樹立した。ヒストンH3がメチル化されたヌクレオソームを精製し、そのゲノムDNAをプローブとしてCpGマイクロアレイを探索したところ、92個の遺伝子が同定された、興味深いことに、このうち3分の2の遺伝子が発現していた。これまで、H3メチル化は遣伝子発現を抑制すると考えられていたが、必ずしもそうではないことが示された。さらにこれらの遺伝子について転写を活性化するH3およびH4のアセチル化をクロマチン免疫沈降にて検討したところ、約8割の遺伝子においてアセチル化を受けていた。一方、発現を認めない遺伝子においてはアセチル化を認めなかった。以上のことから、1)H3のメチル化と転写抑制との相関は認められない。2)H3、H4のアセチル化と遺伝子発現には従来知られていたような関連が認められる。3)遺伝子発現においてH3、H4のアセチル化はH3のメチル化に対して優勢である、ことなどが示唆された。
|