枯草菌のホメオスタシスに関与するアルカリカチオン輸送系の研究は、全ゲノムが明らかになったことがきっかけとなり解明が進んでいる。大腸菌などのグラム陰性菌と枯草菌とでは、細胞のホメオスタシスに関わるアルカリカチオンの循環機構に関与する既知遺伝子同士に相同性は見られない。よって枯草菌においては、新規な機構の発見が期待される。枯草菌のデータベースを調べると少なくともあと6つのNa^+の排出に関わる候補と4つのK^+の取り込みに関与する候補と2つのK^+の排出に関与する候補が存在する。本研究では、これらの機能未同定タンパク質の機能を明らかにすることにより、ポストゲノム研究における基軸生物として位置づけられている枯草菌のアルカリカチオン循環機構の全貌を解明することを目的とする。2003年度の成果としては、生理機能解明を始めている機能未同定遺伝子のうち以下の知見を得た。 1.Na^+/H^+アンチポーターと相同性のあるyhaUを含むyhaSTUオペロンが、高アルカリ性pHや高塩濃度で転写が促進されること。 2.YhaUによるK^+排出は、同じオペロンにコードされたYhaSのC-末端側とYhaTによって調節されること。 3.KtrA-KtrBが高親和性のK^+取込み機構であり、KtrC-KtrDが低親和性のK^+取込み機構として働くこと。 4.これら2種類のK+取り込み系を欠損した変異株は、低K^+濃度でも生育が可能なことからこれら以外にK+取り込みを行うシステムが存在することが示唆された。 5.YvgPが、アルカリ性に至適pHを持つNa^+/H^+アンチポーターであること。 6.新たにyrvCDオペロンの遺伝子産物がK^+取り込みに関与すること。 7.YfkEは、Ca^<2+>/H^+アンチポーターとして機能し、Na^+/H^+アンチポーター活性を持たないこと。 8.yfkEDオペロンは、SigBおよびSigG依存であること。
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