研究概要 |
遺伝子破壊株などのマイクロアレイデータを用いて,ベイジアンネットワークによるモデル化を中心に研究を行った.まず,時系列マイクロアレイからダイナミック・ベイジアンネットワークとノンパラメトリック回帰によるモデル化手法を開発した.この方式を細胞周期マイクロアレイデータに適用し,これまで開発してきた摂動データからのベイジアンネットワークによる遺伝子ネットワーク推定法と比較した結果,計算機実験では,より精度の高い推定が行えることを確認した.次に,マイクロアレイデータと遺伝子コード領域の上流配列情報を利用した遺伝子ネットワーク推定法を開発した.この方式と従来の方式を遺伝子破壊株マイクロアレイデータを用いて計算機実験によって比較した結果,より精度の高い推定を行えることが判明した.さらに,BNRC, BDe, MDLなどの評価関数を用いた場合,最適の遺伝子ネットワークを枚挙により探索することは,スーパーコンピュータを用いても遺伝子数が10程度が限界であったが,探索空間の数学的解析に基づき,ダイナミックプログラミングを用いて,20遺伝子の最適ネットワークの探索が可能になった.また,評価関数のスコアのよい順に遺伝子ネットワークを枚挙することも可能になった.これらの成果により,1)最適なネットワークが必ずしも生物的により正確な情報を抽出しているとはかぎらないこと,(2)最適から準最適な多数のネットワークに高い頻度で出現している遺伝子間の制御関係はほぼ正しいこと,(3)BNRC, BDe, MDLの評価関数では,BNRCを用いた推定法が際立ってよいこと,などの知見が得られた. そして、遺伝子ネットワークのモデル化とシミュレーションのための数理モデルを,これまで研究代表者が開発してきたシステムを再検討することにより,細胞内の局在情報や物理現象などが扱えるように,再開発を行った.
|