研究課題/領域番号 |
15014206
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
黒田 真也 東京大学, 大学院・情報理工学系研究科, 科学技術振興特任研究員(常勤形態) (50273850)
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研究分担者 |
川人 光男 株式会社国際電気通信基礎技術研究所, 脳情報研究所, 所長(研究職) (10144445)
前田 彰男 東京大学, 大学院・情報理工学系研究科, 科学技術振興特任研究員(常勤形態) (30361538)
笹川 覚 東京大学, 大学院・情報理工学系研究科, 科学技術振興特任研究員(常勤形態) (80345115)
尾崎 裕一 東京大学, 大学院・情報理工学系研究科, 科学技術振興特任研究員(常勤形態) (70345114)
SIVAKUMARAN Sudhir 東京大学, 大学院・情報理工学系研究科, 科学技術振興特任研究員(常勤形態) (70361540)
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キーワード | 生体生命情報 / シグナル伝達 / システム生物学 / バイオインフォマティクス |
研究概要 |
細胞の運動や収縮、あるいは学習・記憶の分子基盤である神経のシナプス可塑性などの一連の生命現象は、生化学反応ネットワークにより制御されている。しかし、その分子ネットワークは非線形を含んだシステムであり、細分化する実験的手法のみでは全体の挙動を把握することはできない。本研究では、コンピュータシミュレーションモデルとそれを検証する実験的手法を密接にフィードバックさせながら、1)細胞の収縮を制御するミオシン軽鎖のリン酸化を制御する分子ネットワークと、2)シナプス可塑性の一つである小脳のLTD長期抑圧(LTD ; long-term depression)の定量的記述を行った。 1)細胞の収縮を制御するミオシン軽鎖のリン酸化を制御する分子ネットワークについてはシミュレーションモデルと実験の両方を用いて解析した。ミオシン軽鎖のリン酸化は、刺激後5分をピークとする一過性の初期相と、その後60分以上続く継続相からなる。しかし、シミュレーションでは、ミオシン軽鎖リン酸化の初期相は再現できたものの、継続相については再現できなかった。一方、ミオシン軽鎖リン酸化の上流に存在するRhoとCa^<2+>の上昇については、実験、シミュレーションともに初期相のみであった。このことから、ミオシン軽鎖リン酸化の継続相に必要な経路は、RhoあるいはCa^<2+>の下流に存在すると考えられる。次に、シミュレーションにより継続相に必要な未知の経路は、Rho-kinaseの下流に存在することが強く示唆された。この予想をミオシンホスファターゼの抗リン酸化抗体を用いて検討したところ、予想と同じく継続していることが明らかとなった。さらに、この継続相はHysteresisを伴う現象であった。したがって、Rho-kinaseの下流に未知のポジティブフィードバックが存在していることが強く示唆された。 2)小脳のLTDについてはスパイクタイミングに依存したCa^<2+>上昇機構のシミュレーションモデルを作成した。その結果、小脳プルキンエ細胞におけるCa^<2+>上昇は、IP_3受容体を介した再生サイクルCa^<2+>-induced Ca^<2+> release(CICR)が本体であることが定量的に明らかとなった。また、PF刺激により産生されるIP_3に依存して、CICRの閾値が低下する。すなわち、IP_3はCICRのゲートとして機能する。ここに、CF刺激によりCa^<2+>が流入するとCICRがトリガーされてCa^<2+>が劇的に上昇することが明らかとなった。また、PF刺激からIP_3産生までの時間遅れが、PFとCFのタイミングの時間窓を決定していることも明らかとなった。さらに、今まで一つのメカニズムでは説明できないと考えられてきたさまざまな小脳のLTDの実験結果を統一的に説明できることを明らかにした。
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