本年度の研究計画に基づいて以下のような研究業績をあげました。 (1)DNAマイクロアレイによる遺伝子発現量測定 DNAマイクロアレイを用いて、大腸菌または酵母に外部より刺激を加えた際の、発現遺伝子量を測定した。刺激により反応が大きく異なり、発現量が大きな遺伝子の中には機能未知なものが含まれていることも観察できた。 (2)Fuzzy k-means clusteringによる発現遺伝子のグループ化(クラスタリング) 時系列マイクロアレイデータに対して、従来から行われている統計的手法のk-means clusteringと今回あらたに適用するFuzzy k-means clustering(k-means clusteringにFuzzy推論を適応した方法)による解析を行った。 DNAマイクロアレイデータには実験ノイズが多く、解析の際大きな問題となる。このため、酵母胞子形成関連45遺伝子の胞子形成時の時系列DNAマイクロアレイデータに対して人工的にノイズを追加し、ノイズなしのクラスタリング結果とノイズ付加クラスリング結果を比較した。この結果、k-means clusteringではノイズあり・なしで50%程度の再現率しか得られない高ノイズ付加の場合でも、Fuzzy k-means clusteringは80%以上の再現率を有しており、ノイズに対して強い抵抗力を持つことが確認できた。 胞子形成とは無関係の数種類の遺伝子の時系列DNAマイクロアレイデータを上記45遺伝子に追加して、k-means clusteringおよびFuzzy k-means clusteringを行った。k-means clusteringでは今まで形成されたクラスタと大きく異なる結果が得られたが、Fuzzy k-means clusteringでは帰属度の大きな遺伝子のみに注目すれば、新たに追加したデータの影響は小さく、45遺伝子のみでクラスタリングした結果とほほ同じクラスタが得られた。この結果、ある生物学的現象時のマイクロアレイ実験などで得られる多くの遺伝子データに対してクラスタリングを行っても、その現象に関係のない遺伝子の影響はあまり受けず、現象に中心的な働きを持つ遺伝子がうまく得られるであろうと考えられた。 このため、Fuzzy k-means clusteringは発現遺伝子のクラスタリングの強力なツールであると考えられた。
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