今年度我々は第16番染色体連鎖型脊髄小脳変性症(16q-ADCCA)の原因遺伝子を同定するために、候補領域内に存在する30個に上る遺伝子について変異のスクリーニングを行った。方法は、各遺伝子の全てのexonについてintron-exon境界領域を含めて、DNAをPCRで増幅した。対象は健常日本人と16q-ADCCA患者とした。本年度、全ての候補遺伝子について解析をほぼ完了した。その結果、患者に特有の遺伝子のvariationを2箇所同定した。すなわち、健常日本人の100名には検索した範囲で存在せず、16q-ADCCAの40家系の患者には全員共通している変化であった。このうち1つはある遺伝子内のexonにあり、真の遺伝子変異である可能性が期待された。このため、この遺伝子の正確な構造を決定するために、RT-PCR法などを用いて、遺伝子の発現パターン、脳に限らず組織ごとの発現の有無などを解析すると共に、alternative splicingによるisoformの検索を行った。もうひとつの特異的変化を有する遺伝子についても現在同様の解析を行っている。 一方、この特異的な変化を検索することで逆にこれまでは連鎖解析に頼らざるを得なかった遺伝子診断をより簡便かつ正確に16q-ADCCAの診断を遺伝子レベルで行うことができるようになった。この今のところ特異的な遺伝子変化を有する家系の中から、剖検例が得られた。これは本病型の神経病理学的検索を行えた世界で最初の例である。本症例の神経病理所見は、臨床症状から予想された様に、小脳皮質の変性に限定された。すなわち小脳皮質Purkinje細胞優位の神経細胞脱落が見られ、顆粒細胞脱落などは比較的軽度であった。また、Purkinje細胞はしばしば萎縮し、その細胞体周囲にはhematoxylin-eosin染色でeosin好性に染まる冠状のamorphousな構造物が細胞体を取り囲むように存在していた。このような変化は類縁の脊髄小脳変性症を含めて報告がなく、本疾患に特徴的な変化であると考えられた。以上の分子遺伝学的、神経病理学的知見を誌上報告する準備中である。
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