[目的] 脳内におけるβアミロイドの蓄積は、アルツハイマー病の原因の一つである。βアミロイドの主要な構成成分であるamyloid β peptideは40残基程度のペプチドであり、水溶液中で容易に凝集しβアミロイドを形成する。しかしながら、可溶性のamyloid β peptideが脳脊髄液や血漿中にも検出されており、脳脊髄液や血漿中ではamyloid β peptideにtransthyretinが結合し、amyloid β peptideのβアミロイド形成を妨げているという報告がなされた。本研究では、核磁気共鳴(NMR)法を用いて、transthyretin分子中のどのアミノ酸残基がamyloid β peptideと相互作用しているのか明らかとする。様々な長さのamyloid β peptideとtransthyretinの相互作用をNMRによって明らかとし、どのように結合をしているのか残基レベルで明らかとする。 [結果] (1)本研究では、3種類のamyloid β peptideを合成した。Amyloid β peptideの残基番号1-17からなるフラグメント(Aβ1-17)、残基番号25-35からなるフラグメント(Aβ25-35)、残基番号1-40からなるフラグメント(Aβ1-40)である。ペプチド合成はFmoc法によって行った。(2)Amyloid β peptideとtransthyretinの相互作用を明らかとするために、transthyretin溶液にamyloid β peptideを滴定し、HSQCスペクトル中でのシグナルの変化を追跡した。HSQCスペクトルでは、transthyretinの各アミノ酸残基に対応するシグナルを観測することができるので、transthyretin分子中のどのアミノ酸残基がamyloid β peptideと相互作用しているか明らかにすることができる。結果より、transthyretinは疎水性相互作用によってサイロキシン結合部位にamyloid β peptideのC末端部分を捕捉していることが明らかとなった。
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